研究概要 |
中国人日本語学習者(CL ; Chinese Learner)と日本語母語話者(JN ; Japanese Native)を対象に日本語能力試験の聴解問題を利用し,言語理解課題(課題1)を実施した。また,課題1の逆回転音声による対照課題(課題2)を実施した。課題2は周波数等の音響特性において課題1と同等であるが,意味理解は不可能であるため,課題1のみで賦活が見られたチャネル(ch)が言語理解に関わる部位であると仮定した。測定にはMRS装置ETG-4000(日立メディコ)を使用し,片側22ch(両側44ch)の同時計測を行った。測定位置は,被験者のブローカ野近傍(右半球は同等部位)を含む前頭葉から側頭葉をカバーする範囲とした。得られたデータは,1秒間の移動平均処理後チャネルごと加算平均し,課題中に有意水準を越えるオキシヘモグロビン濃度長変化が見られたものを有意なchとした。 課題1において,CL,JNともにブローカ野近傍を中心に有意な賦活が認められた。課題2においては,CLとJNともブローカ野近傍における賦活は認められなかった。以上の結果から,課題1の結果は日本語理解に依存した脳活動である可能性が示された。また,課題1において,CLは広い範囲で賦活したのに対し,JNはCLほど広範囲での賦活は認められなかった。CL, JNとも聴解問題の成績に差は認められなかったが,JNとCLの間の言語処理負荷には違いがあると考えられた。 従来の言語テストによる検討では,学習者とネイティブの反応が同様であった場合,習得段階を「上級」と評価するほか基準の設定は困難であった。しかし,MRS装置を使ったデータを蓄積していくことにより,学習者の脳活動を基盤とする,より詳細な日本語能力の評価や新たな教材開発など教育への応用が可能となると考えられた。
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