研究課題/領域番号 |
19H01150
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分63:環境解析評価およびその関連分野
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
岩田 久人 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (10271652)
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研究分担者 |
国末 達也 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (90380287)
石橋 弘志 愛媛大学, 農学研究科, 准教授 (90403857)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
44,850千円 (直接経費: 34,500千円、間接経費: 10,350千円)
2023年度: 8,060千円 (直接経費: 6,200千円、間接経費: 1,860千円)
2022年度: 9,230千円 (直接経費: 7,100千円、間接経費: 2,130千円)
2021年度: 9,750千円 (直接経費: 7,500千円、間接経費: 2,250千円)
2020年度: 9,750千円 (直接経費: 7,500千円、間接経費: 2,250千円)
2019年度: 8,060千円 (直接経費: 6,200千円、間接経費: 1,860千円)
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キーワード | 感受性 / 細胞内受容体 / 水棲哺乳類 / インビトロスクリーニング / インシリコ解析 / 繊維芽細胞 / ダイオキシン類 / DDT類縁体 / 化学物質 / オミクス / オミックス / 有機ハロゲン化合物 / 誘導神経細胞 / エストロゲン受容体 / ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体 / POPs / アザラシ |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の全体構想は、水圏生態系の頂点に位置し、進化学的に独自の分類群に属する水棲哺乳類の細胞内受容体のシグナル伝達系を対象に、環境汚染物質による系の撹乱を先端技術によって解析し、種特異的な感受性を評価することである。さらにその知見を基に、種差の原因となる感受性規定因子の分子的な理解を目指す。
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研究実績の概要 |
今年度の成果は以下の2点である。 1)日本沿岸に座礁・漂着した沿岸性・外洋性鯨類11種のスクリーニング分析から得られたデータを継続して解析したところ、これまで一般にモニターされているp,p’-およびo,p’-DDT, DDE, DDDの6物質だけでなく、類似の化学構造を有するDDT類縁体11化合物の蓄積が明らかとなった。昨年度構築した半定量法により蓄積濃度を測定した結果、一般に高濃度蓄積が報告されているp,p’-DDEよりは低値を示したものの、o,p’-DDTに匹敵するDDT類縁体が存在し、鯨種間でも差異が認められた。したがって、DDT類縁体を含めた複合曝露の影響が懸念された。 2)スナメリは沿岸生態系の食物連鎖を介してダイオキシン類を高濃度に蓄積することから、それらの毒性影響が懸念されている。一方、ダイオキシン類に対する感受性には大きな生物種差があるため、スナメリのダイオキシン類に対する影響を評価するためには、本種自身の影響評価が必要である。そこで本研究では、日本沿岸のスナメリ6個体から採取した線維芽細胞を培養し、ダイオキシン類の一種であるTCDD曝露と シトクロムP450 1(CYP1) 各分子種誘導の用量―応答関係を調査した。さらに、個体間で CYP1 誘導能を比較した。検証した全個体で CYP1B1 よりも CYP1A1 が高倍率で誘導された。一方、CYP1A2 はスナメリ線維芽細胞では発現が認められなかった。よってスナメリ線維芽細胞では、TCDD 曝露のバイオマーカーとして CYP1A1 が最も有用であることがわかった。また、各個体のCYP1A1 誘導に関する TCDD の EC50 の変動係数は0.38と低値を示したことから、TCDDに対するスナメリの感受性は系群及び個体間で保存されていると推察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記載したように、今年度は以下の成果をあげることができた。 1) 日本沿岸に座礁・漂着した沿岸性・外洋性鯨類11種を対象にスクリーニング分析を実施した結果、既存の残留性有機汚染物質(POPs)に加え、DDT類縁体11化合物の蓄積が明らかになった。半定量法により蓄積濃度を測定した結果、o,p’-DDTに匹敵するDDT類縁体が存在し、複合曝露の影響が懸念された。 2) スナメリから6個体採取した線維芽細胞を用い、TCDD曝露によるCYP1A1・1B1の誘導を確認した。またTCDDに対するスナメリの感受性は系群及び個体間で保存されていると推察された。 これらの成果はいずれも当初予定していた研究実施計画の内容をほぼ網羅している。また成果は順調に海外学術誌に論文として公表する準備を進めていることから、本研究課題は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1)11種の鯨類について既存の残留性有機汚染物質(POPs)に加え、新規のPOPsを含めた有機ハロゲン化合物(OHCs)蓄積プロファイルを明らかにする。得られた定量データを統計解析することで、蓄積プロファイルの種差の要因(外洋域・沿岸域、生息緯度・深度、餌生物の違い等)についても解析を試みる。 2)今年度の研究で鯨類から検出されたDDT類縁体11化合物を対象に、鯨類のエストロゲン受容体(ER)の転写活性化能をインビトロレポーター遺伝子アッセイ系で測定する。さらに、DDT類縁体11化合物とERの相互作用の種類と強さをインシリコドッキングシミュレーションで解析し、これら化合物と相互作用するアミノ酸を予想する。 3)さらにアザラシについても多様な環境汚染物質を対象に、インビトロレポーター遺伝子アッセイ系でアザラシERの転写活性化能を測定する。またインシリコドッキングシミュレーションを実施し、ドッキングシミュレーションパラメーター(相互作用エネルギーなど)とMOE-VSAおよびMACCS(Molecular ACCess System)記述子を含む分子記述子を用いて、ERのリガンド特異的インビトロ転写活性化を説明する定量的構造活性相関(QSAR)モデルの構築を試みる。 4)TCDD曝露によるCYP1A1の誘導を確認したスナメリ線維芽細胞を対象に、トランスクリプトーム解析をおこなう。変動が認められた遺伝子群については、バイオインフォマティクスツールを利用して、転写因子・パスウェイ・ネットワーク・疾患のエンリッチメント解析をおこなう。この解析によって、AHRシグナル伝達系撹乱に起因する疾患(影響)を予測する。 5)これまでに得られた結果を統合し、水棲哺乳類種特異的なリガンド(環境汚染物質)ー受容体応答を規定する要因の解明を試みる。
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