研究課題/領域番号 |
19H03279
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分45030:多様性生物学および分類学関連
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
中野 裕昭 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (70586403)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,160千円 (直接経費: 13,200千円、間接経費: 3,960千円)
2023年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2022年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2021年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2020年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2019年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
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キーワード | 珍渦虫 / 珍無腸動物 / 新口動物 / 左右相称動物 / 進化 / 無腸動物 / 後生動物 / 自然史 / 珍無腸動物門 |
研究開始時の研究の概要 |
珍渦虫は、肛門、中枢神経系、体腔などの器官を欠く海産動物であり、新口動物を含む左右相称動物の起源や進化を考える上で重要な動物群であると考えられている。しかし、珍渦虫の生物学的研究は遅れており、生殖、発生、形態、生態などで解明されていない事象も多い。申請者は2017年に日本近海から珍渦虫の新種を報告し、その後も日本近海複数箇所でこの種の採集に成功している。本研究では、この種を新口動物や左右相称動物の起源や進化を研究する上で鍵となる実験生物とするべく、日本近海の珍渦虫の形態、生態、発生などの基礎的な生物学的な情報を蓄積することを目的とする。
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研究実績の概要 |
珍渦虫は集中神経系や肛門などを欠く非常に単純な体を持つ海産動物である。その単純な体は左右相称動物の共通祖先の構造を保持している可能性があると示唆されており、珍渦虫を研究から左右相称動物の祖先の解明につながると期待されている。しかし、珍渦虫は採集が困難であるため実験動物として扱いづらく、研究は進んでいない。その完全な個体発生や成長過程も未だ解明されていない。その一因は、珍渦虫の生殖に関する知見が不足していることにある。そこで、私たちは珍渦虫の生殖学的研究を行い、その成果を投稿論文として発表した。本研究では、珍渦虫を定期的に採集し調査することで、その繁殖時期が冬季であることを確認した。そして、人工的に卵や精子を放出させる手法を確立し、放出の様子を観察することで、卵や精子は体表が破れて、その穴から体外に放出されることを明らかにした。また、これまで珍渦虫は雌雄同体な動物であるとされていたが、これを支持する結果は得られなかった。さらに、体外受精であることが示唆された。これらの知見を総合し、珍渦虫の卵や精子の成熟過程に関する新たな仮説も提唱した。今後、本研究で得られた珍渦虫の生殖に関する新たな知見や技術を生かして、珍渦虫の個体発生過程の完全な解明を目指す。これにより、動物の起源や進化過程に関する新しい情報が得られると期待される。
2022年9月の日本動物学会第93回大会において、珍渦虫の研究成果を発表した。また、珍渦虫と比較対象として扱っている無腸動物、平板動物、扁形動物、ウミウシ類に関する研究成果も年度内に学会で発表を行なった。平板動物に関しては図書の章でも成果を公表した。さらに、本研究の成果や手法の一部を、和歌山県白浜町の白浜水族館で開催された、自らが企画運営に携わった「海洋生物を究める!-JAMBIO沿岸生物合同調査の紹介-」という企画展で展示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度には9月の台風15号、及び10月の台風19号の襲来により、予定されていた採集を長期間実施できなかった。また、令和2年度は新型コロナ感染拡大のため、年度前半に所属機関である筑波大学下田臨海実験センターにおける研究・採集活動に制限が設けられていた。これらのことから、研究の進捗状況には遅れが生じていた。令和3年度は所属機関での採集や実験はおおむね計画通りに実施できたものの、県外への出張に制限が設けられていた時期があったため、他の臨海実験施設での採集は計画通りには実施できなかった。 令和4年度では各種の制限がまだ完全には解消されていなかったものの、所属機関での採集や実験はおおむね計画通りに実施でき、他の臨海実験施設での採集も実施できた。また、すでに入手していた珍渦虫の標本を用いた研究で研究が進展し、成果をまとめ論文として発表することができた。さらに、珍渦虫の研究成果との比較対象となる他の動物種を用いた実験も実施し、着実に成果を上げている。したがって、全体的に見れば、研究期間前半にあった主にコロナ禍による行動制限を理由とした研究・採集活動の遅れを取り戻し、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、珍渦虫の採集を多く実施し、研究を進めていく予定である。しかし、新型コロナの感染状況や台風などの天候に採集が左右される点は相変わらずいなめず、これまで以上にニッポンチンウズムシの採集個体数が貴重なものになることが考えられる。従って、珍渦虫が採集された際は、その個体から極力多くの情報が得られるよう、これまで以上に入念に実験を事前に計画したい。具体的には、初めに行動実験など生体でないとできない実験を実施し、その後に固定し、一部を形態学的研究、一部をゲノム学的解析のように1個体からもできるだけ多くの成果が得られるようにする。また、ニッポンチンウズムシの採集がより困難になった場合は、これまでに採集されているニッポンチンウズムシや他種の珍渦虫の標本の活用をこれまで以上に積極的に行っていきたい。さらに、珍渦虫以外の動物種を用いた実験も行っていきたい。まず、珍渦虫と同じ珍無腸動物門に属する無腸動物において研究を行うことで、珍無腸動物門の生物学的データを蓄積していきたい。特に、令和3年度に新種記載を行なったオニムチョウウズムシの研究を重点的に進める予定である。そして、左右相称動物に含まれない4つの動物門のうちの一つである平板動物、および左右相称動物に含まれるウミウシ類や扁形動物の研究を行いその結果を珍渦虫と比較することで、左右相称動物の祖先に関する知見を得たい。また、珍渦虫の採集場所に生息する他の海産生物の研究を行うことで、その珍渦虫の生息場所の生態系の理解を目指す。さらに、他の海産生物を用いて、microCTのように今後珍渦虫で応用が可能な技術の習得も行いたい。
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