研究課題/領域番号 |
19H05624
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研究種目 |
基盤研究(S)
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分D
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野地 博行 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 教授 (00343111)
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研究期間 (年度) |
2019-06-26 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
180,440千円 (直接経費: 138,800千円、間接経費: 41,640千円)
2023年度: 31,460千円 (直接経費: 24,200千円、間接経費: 7,260千円)
2022年度: 35,360千円 (直接経費: 27,200千円、間接経費: 8,160千円)
2021年度: 35,360千円 (直接経費: 27,200千円、間接経費: 8,160千円)
2020年度: 35,360千円 (直接経費: 27,200千円、間接経費: 8,160千円)
2019年度: 42,900千円 (直接経費: 33,000千円、間接経費: 9,900千円)
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キーワード | デジタルバイオアッセイ / 動的フェムトリアクタ / 1分子計測 / デジタルバイオ分析 / フェムトリアクタ / ナノバイオ / インフルエンザ |
研究開始時の研究の概要 |
これまでのfLリアクタは受動的に溶液を収納するだけであり、その応用範囲には制限があった。本プロジェクトは、これまでの「静的」なリアクタ技術から、「動的」なリアクタ技術へと基盤技術を一新する。具体的には、能動的な分子取り込み機構、リアクタ内部溶液組成の制御機構、リアクタの個別取り出し機構などを開発し、on-chipに搭載した統合型デジタルバイオ分析やmultiplexデジタル遺伝子解析を確立し、オンサイト1分子診断を実現する。 また、様々な条件下でインフルエンザの多次元デジタル分析を行い、クライオ電顕による構造解析や1ウイルスゲノム解析により、薬剤耐性が出現する構造基盤や遺伝基盤を解明する。
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研究実績の概要 |
本プロジェクトは、これまでの「静的」なリアクタ技術 から「動的」なリアクタ技術へと基盤技術を一新することを目的としている。研究項目の柱は、項目1「動的fLリアクタデバイスの基盤技術開発」、項目2「on- chip統合型デジタルバイオ分析法の確立」、項目3「分子個性の多次元解析と個性発現メカニズムの解明」である。 項目1ではPEG/DEX相分離とfLリアクタを融合させタンパク質やDNA濃縮システムを構築した。またfLリアクタからドロプレット回収技術としてIRレーザーを用いてドロップレットが個別回収できることを見出した。またPEG修飾したリアクタデバイスから指でタッピングするだけでドロップレット(0.5-5.0μm)を一括回収できることを見出した。このドロップレットを鋳型とした均一系リポソームを作成することにも成功した。項目2では、ナノ粒子を用いた手法及びsplit型 酵素を用いた手法を検討している。特に2019年度に開発したナノ粒子計測技術を発展させ、異なるナノ粒子を用いたmultiplex型のdigital ELISA法を確立した。この方法はある共同研究先である民間企業へ引き継がれている。また当初計画になかった新型コロナウイルスの超高感度検出系の開発に取り組んでいる。項目3では、ウイルスの「個性」を触媒活性のばらつきの計測に取り組んだ。特に、インフルエンザウイルスの酵素活性、阻害剤に対する耐性を粒子ごとに計測することに成功し、kcatおよび50%阻害濃度(IC50)が粒子毎に30%程度以上異なることを見出した。 また2種類の阻害剤に対するIC50に相関がなかったことから粒子の酵素機構は異なることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本プロジェクトの柱は、項目1「動的fLリアクタデバイスの基盤技術開発」、項目2「on-chip統合型デジタルバイオ分析法の確立」、項目3「分子個性の多次元解析と個性発現メカニズムの解明」の三本である。項目1では高分子混合溶液による相分離を検討しDEX ドロプレットに DNA やタンパク質を数十倍以上 に濃縮するリアクタ技術の開発に成功した。またIR照射による局所加熱によって相分離が誘発される新現象を発見した。項目2では異なるナノ粒子を用いて複数のターゲット分子を1分子計測できるmultiplex型デジタルバイオ分析の新手法の確立に成功した(Lab Chip 2020)。さらに当初計画にはなかった新型コロナウイルス検出にも取り組んでおり、短時間での超高感度検出が見込まれる。項目3では、インフルエンザウイルスの粒子個性の定量計測に成功している。インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼ活性の速度論的パラメータおよび2種類の阻害剤に対する50%阻害濃度(IC50)を測定し、粒子ごとに酵素活性、IC50にばらつきがあること、2種の阻害剤のIC50に相関が見られないことからそれぞれの阻害剤に対する耐性機構が異なることが示唆された。 (Anal Chem 2021)。これは、ウイルスが薬剤耐性をどのように獲得するのかを見る上で極めて重要な知見を与える基盤となると考える。 以上の通り、全て研究項目で着実な成果が得られており、総じて良好であると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
項目1「動的fLリアクタデバイスの基盤技術開発」は、i) 分子濃縮、ii) 連続溶液交換、iii) リアクタ回収技術を軸として開発を行っている。i) については、DEX/PEG相分離と統合したfLリアクタ技術の特性解析を進め、この技術を確立させる。また、局所加熱により相分離が誘起される現象の成立条件を詳細に解析し、fLリアクタの制御技術として確立することを目指す。ii) インフルエンザの多次元デジタル計測で連続溶液交換技術は確立した。今後は、独自の無細胞遺伝子発現能を有するfLリアクタ(人工細胞リアクタ)技術と統合することで、新しい酵素スクリーニング法・DNA連結・合成・スクリーニング技術を開発する。iii) 上述の人工細胞リアクタを用いたスクリーニングでは、狙ったfLリアクタからDNA回収技術が必要となる。局所加熱技術を用いて、光学操作によるDNA回収技術を確立することで、スクリーニング技術を高効率化させる。 項目2「on-chip統合型デジタルバイオ分析法の確立」は、新型コロナウイルスを含むRNAウイルスの迅速超高感度検出を可能とする新規のデジタルバイオ分析法の確立を目指す。ターゲットRNAによって酵素活性を活性化させる系を構築し、迅速にウイルスRNAを特異的に検出するデジタルバイオ分析法の確立を目指す。 項目3「分子個性の多次元解析と個性発現メカニズムの解明」では、インフルエンザウイルスの多次元デジタル計測に成功した。今後は、fLリアクタからのRNAゲノム回収技術と組み合わせることで、ノイラミニダーゼ活性および阻害剤耐性とゲノム配列との相関を明らかにし、その粒子の活性の多様性が出現するメカニズムを解明する。一方、ウイルスの構造多型が機能の多様性の基盤となっている可能性も検討するため、クライオ電子顕微鏡による解析と組み合わせた解析も検討する。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A+: 研究領域の設定目的に照らして、期待以上の進展が認められる
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