消費者の請求権を集束する新たな手続を創設した消費者裁判手続特例法は、被告事業者の責任の確認とそれに基づく消費者の加入・救済を分ける新たな手続構造を採用している。2020年度も、この手続について研究を進めた。比較法の対象としては、日本に近い制度を採用したフランス法及びドイツ法、そしてそこから一定の距離を有すると思われる英米法圏のクラスアクションも参考に、既存の議論との関係性を洗い直した。 消費者裁判手続特例法が民事訴訟法との関係でなぜ特例法という位置付けになっているのか、どこが特則(ないし独自)なのかという点は、必ずしも明らかでない。もちろん、上記のような手続構造(いわゆる2段階型)を有していることからすると、1段階型で審理・判断される典型的な民事訴訟とは違う手続であるというのは頷ける。しかし、だからといって直ちに民事訴訟法による規律が排除されるわけではないだろう。 あるいは、消費者紛争に特化した訴訟であるという説明もあり得るかもしれない(現実にはこちらの理由が大きそうである)。しかし、消費者裁判手続特例法の立法の前提にある状況、すなわち被害者は訴訟を行う諸々のコストを勘案して合理的に訴訟をしないという前提は、消費者紛争に限らず生じるのではないだろうか。 このような疑問は、日本と同種の手続を用意したフランス及びドイツでの手続がより一般的な規律であることに照らし合わせることで、ある程度解消することができた。すなわち、フランス及びドイツでは1段階目の訴訟物が何かという点が考慮されて各種の訴訟上の規律を用意すべしとの思考が認められるが、日本の特例法の立案に際しては必ずしもこの点は重視されていなかったといえる。1段階目の手続の訴訟物である共通義務の内実を明らかにすることは、特例法の独自性を析出する理論的意義を、また現実の訴訟がどこまで細分化されるかという点を明らかにする実務的意義を有する。
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