研究課題
基盤研究(C)
本研究では、児童期自閉スペクトラム児における語用論スキルの発達を、新たな視点と方法に基づいて探ることをねらいとしている。特に、(1)語用論の理論的枠組みにおいて規定された言語現象に準拠し課題を定めること、(2)潜在・顕在レベルの両面で発話解釈の課程を捉えることを目的として定めた。方法としては実験法を用い、発話の含意を生成する言語刺激に対するASD児の理解を記録・分析する。得られた成果から、臨床場面では気づきにくいASD児の発話解釈のプロセスが新たに明らかになることが期待される。
2022年度は、自閉スペクトラム症および定型発達の小学生児童を対象に、主題および対比という2つの異なる機能を持つ取り立て詞ハの理解、そして、助詞あるいは先行する名詞にともなう強調プロソディの有無による解釈への影響を、行動実験課題を用いて調査した。課題では、3モーラから成る名詞とその色を表す、取り立て詞ハを含む刺激文を音声で再生し(例:めがねは緑色です)、画面上に4つの画像を呈示した。参加者には、4つのうち発話文に対応する画像を選択するよう求め、その回答を分析した。同時に、音声再生時の参加者の4画像への注視行動を、アイトラッカ―(Gazepoint GP3)によって記録した。実験条件として、取り立て助詞ハに強調プロソディが伴う対比条件と、伴わない主題条件が設定された。主題条件では、名詞+助詞の再生後に1画像を、色の言及後に残り2画像を除外可能であるが、対比条件では、名詞+助詞の再生後に2画像を除外でき、プロソディに基づく素早い処理が為されていれば、注視時間に反映されると予測した。調査の結果、児童による画像選択からは、取り立て助詞を伴う単純な発話の理解は、両群共に天井効果を示した。取り立て詞に基づく含意には文脈の考慮を必要とせず、語用機能に問題が指摘されるASD児においても比較的容易であることが考えられる。一方、視線測定による結果では、群間で異なる傾向が認められた。TD群においては、いずれの条件でも発話呈示後の短い間に正解画像を特定していたが、ASD群においては、対比条件においてのみ、正解画像を注視した。このことは対比のプロソディがASD群の解釈を早めていることを示唆している。
3: やや遅れている
2020-2021年度はコロナ禍で対面調査が叶わなかったが、2022年度より対面調査を開始しデータ収集を行うことができた。当該年度が最終年度であったが、ひきつづきデータの補強や追試が必要であるため、実施期間を延長することとした。
2023年度は追試実験を行い、取得したデータの分析を進める。課題のデータとともに取得している、児童の生活年齢、自閉症度、言語機能、コミュニケーションスキルといった変数が、語用機能の発達と関連があるかどうかについても検証を進める。これらについて、学会での発表および論文化を目指す。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件) 図書 (1件)
コミュニケーション障害学
巻: 38(1) ページ: 17-25
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巻: 38(1) ページ: 26-32
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発達心理学研究
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Journal of Autism and Developmental Disorders
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