研究課題
基盤研究(C)
本研究では、児童期自閉スペクトラム児における語用論スキルの発達を、新たな視点と方法に基づいて探ることをねらいとしている。特に、(1)語用論の理論的枠組みにおいて規定された言語現象に準拠し課題を定めること、(2)潜在・顕在レベルの両面で発話解釈の課程を捉えることを目的として定めた。方法としては実験法を用い、発話の含意を生成する言語刺激に対するASD児の理解を記録・分析する。得られた成果から、臨床場面では気づきにくいASD児の発話解釈のプロセスが新たに明らかになることが期待される。
昨年度に引き続き、学齢期のASD児に対し、取り立て助詞の理解の検証を行った。取り立て詞とは、言及された対象と、それと同様の属性を持つ別の対象について、二者の関係性を伝える機能を持つ。言及されていないその他の対象が何であるかを、文脈を参照して特定する必要があることから、語用論的スキルが不可欠であることが考えられる。ASD児は語用論スキルに困難を抱えることが知られているが、ASD児による取り立て表現の理解についてはこれまで日本語では検証されていないことから、本研究の結果が新しい知見をもたらすものと考えた。調査では、累加と対比の機能を持つ助詞を対象とし、すでに先行研究において報告されている、中国語における累加の取り立て副詞の発達をASD児に検証した実験パラダイムを採用した。課題では、異なる助詞を含む発話を参加児に聞かせ、その発話文に合致する画像を選択させた。その結果、定型発達児においては天井効果を示したが、ASD児においては、正答率にばらつきが認められた。群内分析を行ったところ、語彙発達が年齢相応以上で、9歳相当以上の発達を遂げているASD児は高い正答率を示したが、その基準に達しない子どもの正答率は有意に低かった。一方、子どもの生活年齢や非言語性推論能力、自閉性の程度といった値と課題の成績との間の相関は、いずれも認められなかった。本実験では、音声呈示中の視線の動きも記録しているため、今後は引き続き視線データの検証を進める。また、言語発達を基準として臨床群をさらに2群に分けて比較するために十分な参加数を確保することが次年度の課題である。
2: おおむね順調に進展している
例年通り、臨床群と定型発達群の児童およびその養育者を対象とした調査を実施することができている。調査結果については、国内外の学会において報告を行っている。
最終年度であるため、論文化に必要なサンプル数の確保、調査データの分析、成果発表を目標とする。次年度の新しい研究プロジェクト計画のために成果だけでなく残された課題を整理しつなげていくことが望ましい。
すべて 2024 2023 2022 2021 2020 2019
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 4件) 図書 (1件)
コミュニケーション障害学
巻: 38(1) ページ: 17-25
40022593127
巻: 38(1) ページ: 26-32
40022593132
発達心理学研究
巻: 30 ページ: 329-340
130008131394
Journal of Autism and Developmental Disorders
巻: 50 号: 3 ページ: 976-997
10.1007/s10803-019-04325-1