研究課題
本年度は、取り立て詞ダケ・モに基づく語用論推論を検証するため、学齢期ASD群およびTD群の行動データを収集した。課題では、パソコンで合計12のやりとりを呈示した。各試行では、一方の登場人物が他方の人物に対し、取り立て詞もしくは格助詞を用いた命令文を音声呈示した。文刺激は実験条件に沿い、(1)ダケ条件(例:リンゴだけ買ってきてね)、(2)モ条件(リンゴも買ってきてね)、(3)格助詞ヲ条件(りんごを買ってきてね)、(3)否定文条件(りんごを買ってこないでね)の4種類が準備された。その後、それぞれの発話について、聞き手による3つの異なる解釈が視覚呈示された。具体的には、(a)言及されたモノが2つ(AAパタン)、(b)言及されたものとされていないものが1つずつ(ABパタン)、(c)言及されていないものが2つ(BBパタン)描写された(例えばABパタンの場合は、聞き手がりんごとバナナを買ってきた画像を呈示する)。この4刺激×3解釈=12試行について、聞き手が言われた通りにできたかどうかを、子どもに判断させた。課題では12試行全て異なる名詞の組み合わせが用意された。調査の結果、定型発達群は、ダケ・モの機能について大人と同様に、それぞれ限定・付加の解釈を行うことが確かめられた。一方ASD群においては、ダケについては排他的解釈(AA)容認率が包括的解釈(AB)よりも高いが、モについては、両者の容認率に差がない事が分かった。また格助詞ヲ条件では、排他的解釈(AA)はASD・TD群ともに容認率が100%であるが、TD群では、包括的解釈(AB)も8割が容認した。否定条件では共にBBパタンの容認率が100%であり、刺激文の基本的理解に差はないと考えられる。これらを踏まえる、ASD群には、文中で言及されていない名詞を対象に含める包括的解釈を行いにくい傾向があることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、学齢期のASD児および定型発達児を対象に、行動実験を実施し、得られた結果を学会において報告した。また、課題での反応について、アイトラッカーによる計測結果は現在も分析中であり、既に報告した口頭反応と比較し、考察を経てまとめていく予定である。当初計画していたgrip-forceによる計測はまだ情報収集中であり、今後実装にむけて引き続き取り組んでいく。
2021年度は、コロナウイルス感染拡大対策のため、対面での実験の遂行が非常に困難になることが予測される。大きな状況改善がない限りは、オンラインを中心としたデータ収集を行うものとする。したがって、アイトラッキングやgrip-forceパラダイムを用いた計測は、実施が不可能となる。成人の予備的な実験を行いながら、児童への調査は、オンラインで可能な対面実験で収集可能なデータでもって研究を遂行していく。
人件費が想定よりも低く抑えられたため、残額は次年度に繰り越すこととした。
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発達心理学研究
巻: 30 ページ: 329-340
Journal of Autism and Developmental Disorders
巻: 50 ページ: 976-997
10.1007/s10803-019-04325-1