研究課題
基盤研究(C)
筋強直性ジストロフィータイプ1患者のQOL低下の主要因と考えられる過度の疲労感とその関連要因を、生体情報のデータと評価尺度の分析から解明する。そして、体重のコントロールや適度な運動を実践することで、疲労感の低減と睡眠障害の改善をはかり、ヘルスケア行動を促進するプログラムを開発する。本研究の独自性は、これまで測定が困難であったDM1患者の日常生活でのデータを、生体情報端末を利用し24時間の測定を可能にし、そのデータはインターネットを通じ研究者にフィードバックされ、ヘルスケア行動の指導が遠隔地においてもできることである。この手法は、他の難治性疾患の患者の健康管理に適用できる可能性がある。
《目的》筋強直性ジストロフィータイプ1(DM1)は、筋強直や筋力低下の主症状のほか、他の身体的合併症や中枢神経障害を有する難治性疾患である。とりわけ、DM1患者は疲労感が高く、昼間の眠気や抑うつ気分もあり、QoLに影響を与えていると言われている。しかし疲労感の原因は不明であり、軽減する支援方法も確立されていない。本研究では、生体情報端末を利用し活動量のセルフモニタリングを行い、体重コントロールに取り組むことで、健康管理への動機づけを高め、QoLの改善を図ることを目的とした。《方法》20歳から45歳の10名のDM1の研究協力者が参加した。体重はベースライン開始時(T1)、ベースライン終了時(T2)、介入終了時(T3)、フォローアップ終了時(T4)の4回計測された。血糖値(HbA1C)、疲労感(MFI-20)、昼間の眠気(JESS)、抑うつ感(PHQ-9)、QoL尺度(INQoL)も同様に評価された。《結果》体重は、75.1→73.3→71.1→71.4と推移した。T1とT4を比較した場合、4名が減少、4名が変動小(±1kg以内の変動)、2名が増加であった。HbA1Cは、5.2→5.4→5.4→5.2の変動であった。疲労感は、70.6→70.1→68.2→63.9と低下傾向にあった。昼間の眠気は、10.7→12.6→12.0→9.9と、軽度の眠気から強い眠気の間を変動した。抑うつ感は、9.3→9.6→7.8→6.4と低下した。《考察》体重と抑うつ感は、低下傾向を示したことから、本プログラムの有効性を示唆する結果と考えられる。HbA1Cは変動が少なかったので、DM1患者の健康管理の指標としては、体重の方が有効と思われる。疲労感は低下傾向はみられたものの、菅谷ら(2005)の健常成人の51.5に比し高値で、QoLに影響を与える重要な要因と考えられる。昼間の眠気は検討が必要である。
2: おおむね順調に進展している
本来計画していた研究は、新型コロナウイルス感染症により、研究フィールドへの立ち入りが制限されたため、研究協力者の人数が予定より少なくなった。また、本プログラムの他医療施設での実践も時間的に不可能となった。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大以前に、10名の研究協力者の参加により貴重な資料を得た。この成果の一部は、IDMC-12や日本リハビリテイション心理学会(2021)で公表された。現在、専門誌への投稿準備中である。また、当初の計画を一部変更し、疲労感尺度の信頼性と妥当性の検討を、約900人の健常者を対象とし行った。この成果は、BMC Psychologyに、「Evaluating the psychometric properties of the Fatigue Severity Scale using item response theory」のタイトルで投稿した(採択されたがまだ未公刊)。当初の予定とは異なる変更もあったが、研究成果がそれなりにあがってきているので、おおむね順調に進展していると判断した。
研究を2年間延長し本年度が最終年度となる。追加データの収集が可能であれば行う予定である。また、これまでのデータを分析し、専門誌への投稿を行うこと、疲労感尺度の再吟味やDM1における疲労感の問題のレビュー研究も推進する予定である。
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BMC Neurology
巻: 22 号: 1 ページ: 1-7
10.1186/s12883-022-02581-w
筋ジストロフィー医療研究
巻: 7 ページ: 18-23