研究課題/領域番号 |
19K03437
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分11010:代数学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大野 泰生 東北大学, 理学研究科, 教授 (70330230)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2019年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 多重ゼータ値 / 超幾何関数 / Bernoulli数 / 一般超幾何関数 / Schur多重ゼータ値 / Schur多項式 / Jacobi-Trudi公式 / 母関数 / 多重ベルヌーイ数 / 荒川金子ゼータ関数 / 2元3次形式 |
研究開始時の研究の概要 |
多重ゼータ値と超幾何関数のつながりの系統的な解明が本課題の究極の目標である。多重ゼータ値とはリーマンゼータ値を多重化した級数の値である。そのなす空間は対称性に優れ、基本群のガロア表現や結び目の不変量、ファインマン物理や超幾何関数論、保型形式論など、様々な分野における重要な研究対象との深い繋がりが指摘されており、多重ゼータ値の解明が様々な領域における発展を呼び起こす可能性が非常に高い。本研究では、様々な一般化をもつ超幾何関数の理論から、多重ゼータ値にもたらされる寄与への道筋の解明に取り組み、ひいては超幾何関数における成果を多重ゼータ値の空間解明に系統的に役立てる道を切り開くことを目標としている。
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研究実績の概要 |
t-Arakawa-Kaneko多重ゼータ関数における本プロジェクトで得られた成果に基づく現象解析的見地からの研究、すなわち、一般超幾何関数のもつ対称性と関係式から、既に得ている関数関係式あるいは和公式のもつ対称性を捉え直す研究について、Wadim Zudilin氏との共同研究は既に一定の進展を得ているが、コロナ禍での渡航自粛など、様々な直接対話機会の喪失によってその後進めるべき研究の停滞や延期を余儀なくされている。一般化超幾何関数におけるある種のパラメータ操作(補間)により上述の興味深い関係式や和公式を統一的に再構成することで、より広範に一般化超幾何関数の優れた特性を多重ゼータ関数の関係式や対称性の解明に持ち込むことが可能となるため、停滞している研究の遂行がとても急がれる。 他方、これも超幾何関数の性質から再解釈可能と考えられるSchur型多重ゼータ関数の特殊値、すなわちSchur型多重ゼータ値の、双対公式とその一般化を昨年度の研究により得ているが、その対称性をもたらずO和と呼ばれる特殊値の和を、1変数複素関数に補間した場合でも優れた双対性(対称性)が崩れず維持される、という意外な事実を、中筋麻貴氏(上智大学)と武田渉氏(東京理科大学)との共同研究において得た。昨年度の研究成果も含む一連の成果は、Schur型多重ゼータ値が従来の多重ゼータ値の一般化として、とても自然に優良な性質を維持し、しかも俯瞰的に活躍しうることを強く物語っている。また、汲み上げられた性質そのものはある種の超幾何関数の関数関係式の対称性をもって再解釈されるべきものと見受けられる。 Zudilin氏との継続中の課題の遂行およびSchur型多重ゼータ値の一般化された双対性の超幾何関数の観点での解明の遂行のため、コロナ禍で使用困難となった海外渡航費用分を中心に繰り越しを行い研究期間の延長を行うこととなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Kaneko-TsumuraとArakawa-Kaneko型のゼータ関数は、対として存在することが自然である。いずれも Riemannゼータ関数の積分表示において、被積分関数をpolylogを用いて拡張することによって定義されるRimannゼータ関数の一般化であり、ちょうどBernoulli数の定義が2通り存在すること、あるいは多重ゼータ値と等号付き多重ゼータ値とが存在することと合致しており、現在この関数とその近縁にあたる関数の研究が目覚ましい勢いで進展している。今年度は、t-Arakawa-Kaneko多重ゼータ関数の特殊値の和の無限系列について先年得た成果の、超幾何関数の関数関係式による再解釈に取組み、一定の進展は得たものの、統一的見地からの再解釈に加速的に至るには共同研究者のZudilin氏などとの対面での討論など要しコロナ禍においてなかなか期待通りの進展が得られなかった面がある。 他方昨年度行った、Schur多重ゼータ値の双対公式とその一般化の成果はとても意義深いもので、O和を複素一変数補間したO関数と呼ぶべき関数についても、双対性を維持することを、中筋麻貴氏(上智大学)武田渉氏(東京理科大学)とともに解明することに成功した。これらの背後にある表現論を経由して超幾何関数の特性が垣間見えており、その解明とりわけ、今回の一般化双対公式の再解釈が今後急ぐべき課題となる。 3年間のコロナ禍で、研究活動においても非常に大きな制約を受けた。最近まで出張等はほとんど行えず、研究において重要な対面による情報収集や議論も講演も、ほぼできない中であったが、オンラインでの成果講演やオンラインでの定期的研究連絡を行った。また年度末にかけ制限が緩和されたため、モントリオール大学からLalin教授を招聘、対面やハイブリッドでの研究集会の開催もいくつか行い、活発な研究交流の維持に尽力した。
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今後の研究の推進方策 |
先に述べたように、t補間されたArakawa-Kaneko型多重ゼータ関数において、これらの関数関係式や和公式などの対称性の背景にある、ある種の超幾何関数を解明しそのパラメータの操作によるより一般的な多重ゼータ関数の性質探求を行う。他方、Schur多重ゼータ値も多重ゼータ値の補間と捉えることが可能であり、今年度はその一般化双対公式の一変数補間関数化とその双対性の補間の解明に成功した。これにより一段とこの現象の超幾何関数の関係式の文脈での再解釈の可能性が上がったと捉えられ、一般超幾何関数側で既に知られている関係式を用いて多重ゼータ値の構造を解明する研究の進展を目指す。この課題においては、特異点に注目した幾何学的なアプローチが重要となり、合流型関係式などの枠組みが役に立つ可能性が高いと考えている。また、近年得られている、Yamamotoによる2変数非可換多項式環上の積分の言葉での、補間多重ゼータ値やSchur型多重ゼータ値の表示の研究が、重要な役割を担うと考えられる。 コロナ禍の修了により既に3年余大幅に抑制されている対面での研究連絡を多方面で再開しつつあり、海外渡航や海外からの研究者招へいも可能な範囲で積極的に行いたい。その中で研究成果の意欲的発信も続ける予定である。
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