研究課題/領域番号 |
19K03565
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分12020:数理解析学関連
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
川下 美潮 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (80214633)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2019年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 時間依存型逆問題 / 局所化 / 空洞推定 / 介在物推定 / 接合境界問題 / 漸近解による方法 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は囲い込み法による時間依存微分方程式に対する逆問題の解析において「局所化」という視点を導入することを目的とする。それを通じて、これまで申請者らが研究してきたレゾルベントの漸近挙動の解析を利用した逆問題への取り組みにおける適用範囲の拡張を目指す。これまでは基本解全体を用いるなど、必要以上の情報を利用しており、それが適用範囲を限る原因となっていた。その部分の改善を、次の問題の考察を通して試みる。 接合境界面が平坦であるということのみを先見情報とし、平坦な接合境界面の上側から波を発射、観測することにより接合境界面の位置や下側の伝播速度についての情報を得る。
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研究実績の概要 |
本研究の目標は、時間に依存した微分方程式で記述される逆問題を囲い込み法により調べる際に現れる漸近挙動の解析に対する「局所化」の可能性の考察にある。逆問題では観測データから定められた「指示関数」と呼ばれる関数の解析を通じて媒質内部の情報を得ようとする。この問題はHelmholtz方程式におけるパラメータを純虚数にした定常問題の基本解の漸近挙動を調べる問題に帰着させるが、この方法で得られた結果は、基本解の一部の情報しか用いていない様に見える。これが正しければ、必要となるべき部分だけを取り出せるような解析を行えば、問題の局所化が出来るはずである。これまでの基本解をそのまま用いる解析は上記の「局所化」については全く考慮していないことを意味している。そこで、基本解から逆問題の解析に必要と思われる部分のみを取り出せるか、もしそれができないのなら、その理由を解明したいというのがこの研究の目標である。この問題について、令和3年度までに次が分かった。 (i) 一様な媒質の中にノイマン型(ロバン)境界条件に従う穴とディリクレ境界条件に従う穴が混在する場合(以下、混在型という)、最短の長さを与える箇所がどちらかの穴に限定されている場合は、単一の境界しかない既存の場合と同じ方法で議論できる。 (ii) (i)のノイマン型境界条件を消散項付きの境界条件に拡張できる。 (iii) 混在型で、最短の長さを与えている穴がどちらの境界条件を満たしているかが分からない場合、ノイマン型境界条件の境界は3回微分可能、ディリクレ境界条件の方は4回微分可能な場合には漸近解を用いて指示関数の漸近挙動を求めた。 令和4年度はこれまでの研究で得た上の(i)-(iii)についての証明の細部の検証を行い論文投稿の準備を行った。さらにこれらの結果の紹介を行った研究発表についての解説をProceedingsに投稿した(掲載受理された)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では筋道がわかりやすい漸近解を用いた方法により指示関数から情報を引き出すことを考えている。しかし、この方法では空洞の境界についての微分可能性を多く仮定しなければならない。これは素朴に考えるとやむを得ないが、その中で、それをどう克服するかが重要な課題である。これまでの研究で、ノイマン型境界条件を持つ境界の近傍における解の有界性評価は得られている。問題はディリクレ境界条件の扱いである。 ディリクレ境界条件を持つ穴がある場合が意外に難しいのは、境界の近傍における近似解の微分に対する評価が必要になるのが大きな理由である。ノイマン型境界条件の場合は解の有界性の評価のみで良かったので比較的扱いやすかった。この証明方法は基本的に楕円型境界値問題の解の正則性に対する議論と非常に似ている。解の有界性の評価自体は多くの研究があるので、扱いやすいことも納得できる。一方、ディリクレ境界条件のときは境界の近傍における一回微分が有界であるという評価を求めることに対応する。我々が調べた範囲では、この評価について関連した研究がほとんど見当たらない。そのため新たな議論が必要なことが分かってきた。なお、境界の微分可能性を多め(3回微分可能)に取ればベクトル場を用いた座標変換を導入できるので解のパラメータに関する一様な評価を得ることが可能であることはわかる。そこで、この事実を元に指示関数の誤差評価の部分について先に完成させることを優先して考察した。この部分については現在論文投稿の準備を行っている。 この研究の本題である「局所化」の部分については上の評価についての問題を解決しないと先に進めない状況である。研究が遅れている理由は境界の微分可能性を下げる方法がこれまで見いだせなかったことにあるが、この部分についても解の1回微分についての方程式を立てることにより解決しそうである。今後はこの方向で検討を続けたい。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究期間を通じて行ってきた考察や証明の大筋についての軌道修正は必要ないと考えている。これまでの路線を踏襲して研究を進める予定である。令和4年度までに、ディリクレ境界条件を持つ穴とノイマン型境界条件を持つ穴が混在する場合において、観測地点からの距離が短い方がどちらかの境界条件の方から与えられる場合には、既存の方法をうまく組み合わせれば、最短の長さを確実に導き出すことができた。この結果については論文原稿を作成したが、記号の修正など見直しが必要だったため投稿には至っていない。この原稿については近々投稿を行う予定である。 上の距離が等しくなる場合は、上記の場合とは異なり、指示関数の評価だけでは対応できない。そこで、指示関数の漸近形を導くことを考えるが、今回採用している近似解を利用する方法によれば、境界の滑らかさを多く(6回微分可能程度)仮定すれば漸近形の主要項を取り出せる。ここまでの結果に関する研究発表についての解説記事がProceedingsに掲載受理された。 この問題の核心は意外ではあるが誤差評価を適切に行うことにある。誤差評価のため、元の解を変換すれば大きなパラメータを含んだ二階線型楕円型作用素の解の評価を与える問題に帰着できる。そのため、誤差評価問題と楕円型作用素の解の正則性評価とは密接な関係がある。但し、この問題ではパラメータに関する一様評価が要求されるので、既存の正則性評価の手法のみでは、評価が悪くなるため、より詳細な議論が必要になる。問題はディリクレ境界近くでの1回微分に関する有界評価を得ることにある。ここ数年この問題を考えてきたが、1回微分に関する方程式を立て直すことにより評価可能であることが最近分かってきた。新型コロナウイルス感染症のため、研究期間の延長が認められたので、残された期間を通じて上記の方法が有効であることを確認していくことを考えている。
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