研究課題/領域番号 |
19K03849
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分15010:素粒子、原子核、宇宙線および宇宙物理に関連する理論
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
河野 通郎 大阪大学, 核物理研究センター, 協同研究員 (40234710)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2019年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
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キーワード | Ξハイペロン / カイラル有効場理論 / バリオン間相互作用 / 核物質計算 / Ξポテンシャル / Ξ生成スペクトル / Faddeev計算 / ストレンジネス核物理 / Faddeev 計算 / Ξ生成実験 / (K-,K+)Ξ生成実験 / 半古典的歪曲波法 / グザイハイペロン / 核物質内G行列計算 / グザイポテンシャル / カイラル有効場理論相互作用 / グザイ生成スペクトル |
研究開始時の研究の概要 |
陽子と中性子を構成する2つのクォークの他に、ストレンジネス自由度を持つクォークが存在するが、そのクォークを含むハイペロン粒子は日常的な世界では存在しない。そのような粒子の性質を調べることは、物質世界の総合的な理解のために不可欠であり、ハイペロンを生成し陽子や中性子そして原子核との相互作用を明らかにする大規模な実験が行われている。しかし、実験データ解析とその解釈についても、理論的な相互作用の記述と理解の点でも課題が多い。本申請研究では、カイラル有効場理論の枠組みによる相互作用記述に軸足を置き、新しい実験データーが得られつつあるグザイハイペロンと原子核の相互作用に焦点を当てた研究を行う。
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研究実績の概要 |
私達の日常の世界は、クォークのレベルで存在する6積額のクォークのうち、軽い2つのアップとダウンクォークで構成される陽子と中性子(核子と呼ぶ)が束縛した原子核が基本的な要素である。少し重いストレンジクォークの自由度は実在していないが、宇宙の進化過程などで現れる高エネルギーあるいは高密度下では役割を果たすと考えられる。ストレンジクォークを1つ含むΛおよびΣハイベ口ン、そして2つ含むΞハイペロンが核子や原子核とどのように相互作用するかを解明することは、クォークが形作るバリオン世界の全体像を理解するための基本的課題である。私は、核子間相互作用に基礎をおいて原子核の構造と反応を微視的に理解する研究を手掛け、対象を核媒質中のΛおよびΣの性質の研究に拡張してきた。その先の課題としてΞハイペロンの問題に取り組む。核媒質中でのΞと核子の相互作用を考えるには、ΛやΣとの結合を考慮しなければならず、これまでの研究の蓄積に基づく総合的な扱いが必須である。近年、バリオン間相互作用の理論的記述に進展があり、クォークレベルの標準理論である量子色力学に基礎を置くカイラル有効場理論を用いたパラメータ化が進み、核子間相互作用について2核子の散乱実験データを精度良く再現する相互作用記述が得られている。その枠組をハイペロンと核子に適用する研究も進んでいる。この研究課題では、その予測性が高いと考えられるパリオン間相互作用を用いて、原子核中でのΞハイペロンの存在様式を理論的に考察する。世界的に、Ξを生成して原子核との相互作用を調べる実験が進行中であり、日本でも大強度陽子加速器施設においてΞと原子核の束縛状態や(K-,K+)反応による原子核上でのΞ生成スベクトルを測定する実験が進行し、新しいデータが得られている。これらに対し、現象論的な解析には収まらない、バリオン間相互作用に基づく微視的記述に基礎を置く解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、カイラル有効場理論の枠組みでパラメータ化されたバリオン間相互作用を用いて微視的に求めたΞと核子の核媒質内有効相互作用に基づいて原子核中のΞハイペロンの性質を予測し、新しく得られつつある実験データと比較することによって相互作用の妥当性を検証し、バリオン間相互作用理解を進展させる研究を行ってきた。日本の大強度陽子加速器施設で同定されているΞ粒子の束縛状態や、近い将来明らかになる実験データに対応した理論的予測を行い、電磁力によって原子核に束縛しているΞ粒子の状態がΞと原子核の相互作用による影響で変位する大きさを求め、今後の実験データに備えた。また、半古典的歪曲波近似法を用いて、核子がΞに転換する素過程のエネルギー依存性に注意を払ったΞ生成スペクトルの計算結果も行った。将来得られる精度が向上した実験データとの比較を待つ状況である。ΞNNの3体系が束縛されるかどうかは、相互作用の詳細に関わる重要な問題である。実験的には確定していないこの問題に対し、Faddeev 形式による精密計算を行って、カイラル有効場理論の相互作用では3体系としての束縛状態が期待できないことを示した。3体系では2体力の他に3体力が存在する。核子の多体系では3体力が重要な役割を果たすことが明らかになっていて、Ξ粒子についてもその寄与を明らかにすることは、原子核や中性子星物質中でのΞ粒子の性質の理解にとって重要である。3体力の寄与を具体的に計算するには、部分波に展開する必要がある。そこで、その表式の導出に着手し、これまでの文献にある方法とは異なった系統的かつ簡明な表式を導くことができた。この表式自身は、ΞNN系に限らず一般的なものである。具体的計算としては、実験データが存在するΛNN3体系に適用し、カイラル有効相互作用の2π交換3体力の寄与を評価する計算を実行するところまで研究を進展させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
核子間にはたらく核力の理論的記述の研究には長い歴史があるが、現在ではカイラル有効場理論の枠組みで構築される相互作用が、核力に基づいて第1原理的に原子核の構造と反応過程を理解する研究において標準的に用いられている。ハイペロンと核子の相互作用についても、カイラル有効場理論によるパラメータ化が行われ、ハイペロンを含むバリオン間相互作用の包括的理解に向けての研究が進められている。私は、その相互作用記述に基づいてハイペロンと核子の核媒質内有効相互作用の研究を行っていて、ΛとΣハイペロンの研究に続き、本研究ではストレンジクォークを2つ含むΞハイペロンを課題としている。これまで、カイラル有効場理論のパリオン間相互作用を用いて核物質計算を行い、得られた核媒質内のΞN間の有効相互作用を用いて原子核内におけるΞのポテンシャルエネルギーを求めて束縛状態を予測し、既存の実験データとほぼ対応する結果を得た。このことは、用いる相互作用が妥当でありこの方向での研究を続けることが有意義であることを示すものであり、引き続きより重い原子核におけるΞの束縛状態や(K-,K+)Ξ生成スベクトル計算を行い、その研究成果を発表してきた。Ξが原子核に束縛される状態の現在の実験データは少なく、また不定性が大きい。今後のより多くの原子核そして精度の向上した新しい実験データが期待される。そのデータの向上に合わせ、スピン・アイソスピン依存性の微視的検討を含む相互作用記述の精密化をはかる。また、現在のハドロン物理研究で重要な課題になっている3体力の寄与を具体的に検討する。これまでに行った3体力を有効2体力化することに加え、新たに導出することのできた部分波展開式の適用により、核媒質中でハイペロンが関わる3体力効果を明らかにし、中性子星物質の理解につながる研究を行う。
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