研究課題/領域番号 |
19K04921
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分25020:安全工学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
片桐 祥雅 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 上席研究員 (60462876)
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研究分担者 |
光吉 俊二 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任准教授 (30570262)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2019年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 自動車運転 / 高齢者 / 深部脳機能 / 身体化認知 / 内部モデル / 情報欠落 / 情報補償 / 幻影 / 認知制御 / 刺激反応適合性 / 身体性認知 / 背側前部帯状回 / 危険回避 / 事故 / 認知機能 / 刺激競合適合効果 / サイモン課題 / 脳波 / 深部脳活動 / 刺激競合課題 / 学習 / 適応 / 事象関連電位 / 認知症 / 危機回避 |
研究開始時の研究の概要 |
高齢者の自動車運転において認知機能低下による重大事故リスクの増大が社会的問題となっており、運転可否を評価する客観的評価法の確立と同時に健康・運転寿命を延伸する効果的方法の実現が求められている。しかし、従来の脳画像に基づく評価法では認知症のタイプにより異なるタイプの事故や危険運転を発症するメカニズムを説明することができなかった。そこで本研究では、脳のネットワークのダイナミクスの障害の特徴からこのタイプの違いを説明することを試みることとした。この研究の成果は、運転技術の可否を脳機能に基づき客観的に判断する技術を提供するものであり、超高齢化社会の安全安心に資するものと期待される。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、自動車運転における危機回避能力の神経基盤を明らかにし、高齢者の安全運転に資する技術を創製することである。 自動車運転では、外部情報の認知、判断、遂行という一連の高次脳機能プロセスを迅速に行う必要がある。高齢者は身体化認知の低下により外部情報の認知が阻害され適切な判断が困難になることが遂行(運転)の障害になり得る。 判断を障害する原因は、外部情報の一部が欠落すると内部情報により補償する機能が人間には生得的に備わっており、この補償機能による外部情報の歪曲であると考えた。この仮説を検証するため、音を使った単純なオドボール課題を健常な若年音楽家を対象に実施した。その結果、熟達した音楽家程内部モデルに執着し成績を著しく劣化するものの、その行動は不完全な課題刺激に対する補償行動であることを新たに見出した。 具体的には、合図があってボタンを押すという課題において、合図に欠落のあるシーケンスを使うと合図がなくてもボタンを押すという行動が表出されることを見出した。この行動は課題としては不適切であるものの欠落を含む不完全なシーケンスを補償し完全な(欠落のない)シーケンスを再構築するものであることを見出した。さらにこうした補償行動遂行中に刺激に対してのみ出現する外因性誘発電位を認めたことから、内部モデルから幻影をつくることで外部情報を補償するという新たな情報補償メカニズムを仮説として考案するに至った。 限定された情報から未来予測を行うための創造力は予測運転につながる重要な脳機能であるが、不完全な情報を誤って補償すると現状認識が歪曲される。本研究で得られた新たな知見は、身体化認知低下による情報欠落を未来予測機能で補償するため外部情報が歪曲されることが高齢者ドライバーの危険性の本質であることを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
外部情報の認知、分析、判断、遂行という一連のプロセスは、変化する環境の中で適切に行動するための重要な脳機能である。身体化認知の低下により外部情報が適切に提供されないことが判断機能を阻害し適切な行動を表出できないことが高齢者の自動車運転の問題であることをこれまで明らかにしてきた。しかしながら、適切な判断が障害されるメカニズムは必ずしも明らかではない。そこで、欠落した情報を内部モデルで補償する機能が適切に運用されたときに外部の状況把握が歪曲され誤った行動が表出されるという欠落情報補償機能を仮説として考案し、音を使った単純な欠落オドボール課題により仮説検証を行った。 こうした新たな仮説のもと、高齢者に対して身体化認知機能の低下を検証するための試験に加え、欠落情報補償機能を検証するための課題を新たに追加して高齢者ドライバーの危険性の全貌を明らかにする必要があると考えた。 このため被験者試験の方法を再構築したが、感染症が収束せず対面による試験を実施するに至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
自動車運転における危機回避能力に求められる機能は、外部情報を適切に認知する身体化認知機能に加え、不完全な情報を正しく補償する欠落情報補償機能であるという仮説を立て、この仮説を検証することで本研究課題の目的(自動車運転における危機回避能力の神経基盤を明らかにし、高齢者の安全運転に資する技術を創製すること)の達成を目指す。 具体的には視覚を対象とする欠落オドボール課題を行い、聴覚で生じた幻聴と同様に幻覚が欠落により生じ得るかを調べる試験を実施し、欠落情報補償機能仮説を検証する。さらに対象回転体の右回り/左回り判断の転換時の脳の反応変化を測定し、不完全な外部情報を内部情報により補償するメカニズムを明らかにする。被験者は最初に若年健常者とし、その結果を踏まえ若干の健常高齢者を被験者試験に参入する予定である。
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