研究課題
基盤研究(C)
「角度分解偏光ラマン分光法」を用いることで,これまで1つのデータしか得られなかったところで偏光角度の違うたくさんのデータを得ることが可能となった.そして,物質の性質をより詳しく理解できるようになった.一方で,データが増えて解析が大変になっている.本研究では,角度分解偏光ラマン分光の解析法を発展させる.そして,「誘電体の電気を蓄える性質がどうやって決まるのか」理解したい.これが理解できれば,より高性能な誘電材料を開発できると信じている.
角度分解偏光ラマン分光法では,従来のラマン分光で1つのスペクトルデータしか得られなかったところで散乱配置の異なる多くのデータを取得でき,格子振動や格子緩和といった動的な情報だけでなく結晶構造のような静的な情報(ラマンテンソルの対称性)も取得することが可能である。しかし,大量の情報を一度に取得するので,物質に関わる情報を省くことなく効率的に解析する手法が求められていた。本研究では,誘電材料や圧電材料として使われている物質の「強誘電体」において,角度分解偏光ラマン分光で得られる大量のスペクトルを多変量解析で効率的に解析し,リラクサー強誘電体における不均一構造を明らかにすることを目的としている。○[2019年度]多変量曲線分解という行列を分解する手法を角度分解偏光ラマン分光法に初めて導入した。大量のスペクトルを効率的に処理し,情報を落とすことなく格子振動の情報を抽出できることを示した。この成果により,スペクトルの解析作業が大きく軽減された。○[2020年度]は,様々なリラクサー強誘電体において,角度分解偏光ラマン分光実験を実施した。多変量曲線分解を用いて効率的に解析を行い,異なる試料間の情報を比較した結果,不均一構造(化学的秩序領域)の情報を抽出することができた。○[2021年度]は,この解析の効率化を基に,様々な強誘電体へと研究対象を広げるとともに,第一原理計算を基にした格子振動の可視化を行った。○[2022年度]は,位置を変えて角度分解偏光ラマン分光を行う「角度分解偏光ラマン顕微鏡」の開発を行った。実験で得られる位置・偏光角度が異なる大量のスペクトルを多変量解析で効率的に処理し,自発分極の配置や揺らぎのはやさを決めることに成功した。
2: おおむね順調に進展している
濃度傾斜を有するリラクサー強誘電体結晶において角度分解偏光ラマンマッピングを行い,大量のスペクトルから多変量解析で特徴を抽出した。その結果,自発分極の配置や揺らぎのはやさを決めることに成功し(Communications Physics, 印刷中),本研究課題の目標を達成することができた。学術会議などで成果を公表するために,研究機関をもう1年延長する。
学術会議などで成果を公表する。
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