研究課題
基盤研究(C)
ワーカー産卵が頻繁に見られるフタモンアシナガバチを材料に、個体間のCHC変異を経時的に定量し、CHCのシグナルとしての役割を評価するのを第一の目的とする。第二の目的として、ホルモン処理によって卵巣発達の促進と抑制を行い、その場合に起きるCHCの変化、遺伝子発現、個体間の行動の変化とコロニー全体の行動の変化を調査して、CHCの変化と卵巣発育がコロニー全体に及ぼすコストを評価することを目的とする。
フタモンアシナガバチの産卵ワーカーと女王の体表炭化水素の変化を、ワーカーの羽化直後とその後1週間ごとに継続して採集し、GC/MSで分析した。その結果、産卵ワーカーは産卵能力獲得前後で特に体表炭化水素に変化はなく、女王の物と明確に区別され、体表炭化水素が女王のシグナルとして機能していることを示唆していた。また、卵の移植実験を行った結果、16.2%(12/74)の卵が他コロニーでも生存し、その75%(9/12)が特定のコロニーに由来することが明らかとなった。この結果は、卵の体表炭化水素にコロニー間変異が存在し、強いシグナルをもつコロニーが存在することを示唆していた。
産卵の能力を獲得したワーカーは、体表炭化水素が女王化するのでは無く、女王とワーカーは明確に区別されることが明らかとなり、女王とワーカーは不可逆的に決定されることが明らかとなった。また、特定のコロニーが強い女王的なシグナルが存在することが明らかとなった。これまで、ワーカーは産卵能力獲得後は女王的になることがPolistes dominulaで報告されてきたが、今回の発見は、それ以外の道筋が存在することを強く示唆している。また、女王シグナルには強いコロニーと弱いコロニーが存在することが明らかとなり、女王間にもシグナル変異が存在することを示した初めての知見と考えられる。
すべて 2020
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Behavioral Ecology
巻: 31 号: 2 ページ: 577-590
10.1093/beheco/arz212