研究課題/領域番号 |
19K06848
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分45040:生態学および環境学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
秋元 信一 北海道大学, 農学研究院, 農学研究院研究員 (30175161)
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研究分担者 |
神戸 崇 北海道大学, 農学研究院, 農学研究院研究員 (40648739)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2020年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2019年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | アブラムシ / 無性生殖 / ゴール / ミトコンドリアCOI / 交雑 / 1次寄主 / 2次寄主 / クローン / 競争 / エンドウヒゲナガアブラムシ / 飼育法 / 自己・非自己認識 / 有性生殖 / マイクロサテライト / 系統樹 / 混生 / 遺伝子頻度 / クローン間競争 |
研究開始時の研究の概要 |
同種内に有性生殖と無性生殖の系統が存在し、両者がしのぎを削るアブラムシは、有性生殖と無性生殖の適応的意義を評価するのに適した材料である。本研究では、なぜ無性生殖系統が暖温帯地域で卓越し、有性生殖系統がその地域に侵入できないのかを、遺伝的多様性の比較、系統関係、室内実験を通じて解明する。本研究では、有性生殖系統は春期のクローン間競争に弱く、このため無性生殖系統と共存する地域では、数を減らすとする仮説を検討する。
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研究実績の概要 |
令和4年度は,有性生殖系統と無性生殖系統が知られているアブラムシ科ワタムシ亜科のTetraneura akinireグループに注目し,その分類と分布をDNAレベルで詳細に解明した.Tetraneura nigriabdominalisとして長い期間多くの研究者に用いられてきた名称は誤った組み合わせとして破棄され,代わってTetraneura akinireが有効名として使われるべきことを正式に明らかにした.T. akinireはミトコンドリアCOI領域の解析から,形態的には区別できない2つの系統に別れることが明らかとなり,AタイプとBタイプと暫定的に命名し,両群の分類学的および進化学的な関係を分析した.Aタイプはニレ属各種にゴールを形成し,ヨーロッパ南部からヒマラヤ地域,中国,韓国,日本各地に広域に分布する.日本では,ハルニレとアキニレの双方にゴールを形成することが明らかになった.これに対して,Bタイプは札幌から道北や道東部にかけてハルニレ上にゴールを形成し,北海道の何箇所かではAタイプと共存していた.COI配列において,AタイプとBタイプは平均して2.46% (p-distance)の分化を示し,この値は一般的な近縁種の分化程度よりかなり小さかった.ところが,マイクロサテライトを用いて分析したところ,AタイプとBタイプのゴール形成集団は,遺伝子型のタイプから交雑している証拠が得られず,生殖的に隔離された別種と考えるのが妥当との結論に達した.予想外なことに,亜熱帯や熱帯に分布し,イネ科植物の根に寄生するT. akinireの無性生殖系統は,すべてBタイプに属していた.こうした無性生殖タイプは,沖縄,マレーシア,パプアニューギニアにおいて採集されており,Bタイプのゴールの分布とは全く一致しない.こうした分布様式を説明するためには,無性生殖系統の交雑起源を想定する必要がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
無性生殖のみで増殖する種は,アブラムシにおいてしばしば報告されてきた.無性生殖種は害虫アブラムシの主体となっているために,無性生殖の起源に関して,研究者の関心が集まってきた.例えば,現在の課題研究で取り扱ってきたエンドウヒゲナガの無性生殖タイプは,本研究の成果として,交雑起源であることが明らかとなった.異なる植物に寄生し,各植物に適応を遂げることによって,その副産物として寄主植物毎に遺伝的に分化した種内のグループをホストレースと呼ぶが,ホストレース間の交雑によって,無性生殖系統が進化する可能性を提示することができた.一方,フランスの研究者は突然変異によって有性生殖系統から無性生殖系統が分化することを明らかにし,それに関わる遺伝子も解明しつつある状況である.無性生殖種が交雑起源であることは,植物や魚類では知られてきたが,アブラムシでは初めての発見となる.これと同時に発見されたTetraneura akinireの無性生殖系統は,ホストレース間の交雑が原因ではなく,同じハルニレにゴールを形成する近縁種間の交雑が起源になっている可能性があるが,現段階では要因の解明にまでは至っていない.しかしながら,T. akinireの有性生殖系統の2タイプがどのように分布するのか,あるいは,系統間の繁殖関係がどのような状態にあるのかが正確に把握できたため,今後遺伝学的な方法を採用することによって,さらに詳細なデータを得て,研究を展開していく準備が整ったと言える.無性生殖系統は,亜熱帯地域と熱帯地域に広く分布し,独自の形態を発達させているため,形態と系統との関連を探ることも可能となる.
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今後の研究の推進方策 |
次年度が最終年度となるために,2点に絞って研究を行う.第一に,追加的に採集された資料の遺伝分析を行い,系統樹に加え,より信頼性の高い結果を得ることを試みる.第二に,室内で有性―無性系統間の競争実験を試みる.これにより,無性タイプが越冬可能な条件下では,無性生殖タイプが有性生殖タイプを圧倒する可能性を実証できる可能性がある.寒天―切葉法を適用し,有性生殖クローンと無性生殖クローンとの実際の競合の実態を実験室で再現させる.このために,有性生殖クローンを交配し,越冬卵を準備し,得られた越冬卵を3°Cで4ヶ月維持する.同様に無性生殖クローンを同じ期間越冬させ,後に有性タイプの越冬卵と無性タイプのアブラムシを同一環境下の適温(孵卵温度)に置き,競争を再現する.特に,同一温度条件下での,有性生殖タイプの孵化及びコロニー増殖のパターンと無性タイプのコロニー増殖のパターンを比較する予定である.
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