研究課題/領域番号 |
19K06952
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分46030:神経機能学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
國友 博文 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (20302812)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2021年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2020年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2019年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 記憶と学習 / 線虫 / 走化性 / 化学感覚 / 神経ペプチド / 塩走性 / 味覚 / ClCチャネル / 適応行動 / シナプス可塑性 |
研究開始時の研究の概要 |
記憶と学習は健康的な生活を支える高次脳機能であり、それらのメカニズムの解明は神経科学の重要課題である。同様の能力は生存と繁殖に必須なため、比較的単純な動物にも備わっている。土壌に生息する線虫は環境の塩濃度と餌の有無を関連付けて記憶し、その後の探索行動を調節する。この学習では、過去に経験した塩濃度の履歴は、ジアシルグリセロールと呼ばれるシグナル分子の量の変化として1個の味覚神経細胞に記憶される。本研究では、線虫の味覚学習における味覚神経の役割と記憶・学習に必要な神経回路の動作機構を遺伝子・タンパク質レベルで解明し、脳・神経系が適応行動を作り出す動作原理を明らかにする。
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研究実績の概要 |
動物の行動は学習によって最適化される。このとき、どの神経細胞で生じたいかなる生理的な変化が感覚情報の意味づけを変えて従来とは異なる行動を出力するか、学習の機構の詳細は不明な点が多い。本研究はこれを分子レベルで明らかにすることを目的として、モデル生物の線虫C. エレガンスを用いて研究を進めている。線虫は遺伝学的研究手法が整備され、個々のニューロンや神経回路の活動を比較的容易にモニターできる利点がある。線虫は餌を得ていた塩濃度を好み、飢餓を経験した塩濃度を避ける学習行動を示す(塩濃度走性)。この学習に欠損を示す変異体の原因遺伝子の機能解析や神経活動の調節機構、行動の生成機構の解明に取り組んできた。 2022年度は、塩刺激の情報処理を担うAIY介在神経の塩応答について新たな性質を見出し、その成果を論文として発表した(Mabardi et al., 2023)。具体的には、餌を経験した塩濃度に向かう行動において、AIY神経は、特に低塩濃度への走性に必要であった。また低塩濃度への走性に関係したAIY神経の塩応答は、個体が経験した塩刺激の履歴に応じて変化した。但し、これは刺激のパターンに依存し、塩濃度が緩やかに変化する刺激では経験に依存した応答の変化が観察された。一方、刺激として急な塩濃度変化を与えた場合には、AIY神経は過去の経験によらず一定の応答性を示した。また、AIY神経の塩応答は、ASER感覚神経のグルタミン酸性神経伝達に依存した。以上の結果から、AIY介在神経はASER神経が個体の移動に伴う自然な塩濃度変化を感知したときに塩刺激に対して可塑的な応答を示し、低い塩濃度への走性に寄与することが示唆された。 前年度に続き、神経ペプチドの機能解析でも進展があった。FLP-2と呼ばれる神経ペプチドが過剰に生成されると飢餓に伴う学習が顕著に弱まることを見出し、これに関わる受容体を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
AIY介在神経は、ASER感覚神経が出力する主要な後シナプス介在神経のひとつであり、塩走性における重要性も指摘されていた(Satoh et al., 2014)。しかし、塩の刺激に対するAIY神経の応答性がどのような調節を受けているかについては、調べられていなかった。今回これを明らかにし、研究成果を学術論文として発表できた点は良かった。一方で、研究協力者であった大学院生の学位取得と離籍に伴い、当初に予定していた研究計画の一部や、新たな試みは開始できなかった。研究協力者で中国からの留学生である大学院生の入国が遅れる等のCOVID19の影響もあった。
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今後の研究の推進方策 |
神経ペプチドFLP-2およびPDF-1が塩走性において果たす役割を明らかにする。FLP-2を過剰発現した線虫株は、飢餓条件後の塩走性に欠損を示す。この表現型は受容体として知られているFRPR-18欠損によって抑圧される。一方、flp-2またはfrpr-18の変異体は塩走性に顕著な欠損を示さない。以上のことから、FLP-2の過剰発現による塩走性の欠損は、生理的な制御を逸脱したFLP-2がFRPR-18受容体を介して飢餓後の塩走性を攪乱することが原因であると推測される。餌の認識に関与しFLP-2の分泌を促進することが示唆されているPDF-1についても、FLP-2と同様、変異体は顕著な表現型を示さない。FLP-2およびPDF-1がもつ生理的な役割について知る手がかりを得るため、受容体の作用細胞を同定し、神経回路の塩応答がペプチドによっていかに調節されるか調べる。飢餓条件による行動の調節には、インスリンシグナル伝達経路が関与している(Ohno et al., 2014, Nagashima et al., 2019, Tomioka et al., 2022)。ペプチドの過剰発現はこれを抑制しているかもしれない。両者の遺伝学的な関係を調べる。FLP-2とPDF-1は、個体の活動レベル(静止と覚醒)の調節に関わることが知られている(Chen et al., 2016)。また最近、介在神経から分泌されるFLP-2が飢餓やストレスによる耐性幼虫形成の制御に関わることが報告された(Chai et al., 2022)。これらの研究は、FLP-2やPDF-1が他のシグナルと並行して、餌のシグナルとしてはたらく考えと矛盾しない。この可能性を検討する。セロトニンやドパミン、MAPKなどが餌のシグナル伝達を担うことが知られている。これらと神経ペプチドの関係を調べる。
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