研究課題
基盤研究(C)
SATB1はゲノムのオーガナイザーと呼ばれ、核内におけるDNAの構造変化に寄与する。この遺伝子は悪性化した乳がん細胞で顕著に発現し、がんの転移に関連する遺伝子の発現を促している事が報告されている。これらの遺伝子座の幾つかはスーパーエンハンサー(SE)と呼ばれる高密度エンハンサーの集合体を形成し、強力な遺伝子発現誘導が起こっている事が予想されるが、本来形成されない部位でのSE形成機構は明らかになっていない。そこで本研究では悪性化した乳がん細胞に高発現するSATB1と、その異所的なSE形成との関連性を明らかにする。
本研究では良性の乳がん細胞の悪性化過程で転移関連遺伝子周辺に形成されるスーパーエンハンサー(SE)とSATB1の関連性及びその作用機序を明らかにすることを目的とした。良性乳がん細胞MCF-7におけるSATB1の強制発現は一過的な悪性化の誘導しかできなかった。そこで上皮間葉転換(EMT)の安定した系を持つ肺がん細胞株A549を用いて、EMTの時間経過とSEの形成変化をBRD4のChIP-Seqで解析した。その結果、EMTに伴うSEのゲノムワイドな再構成が生じていることが確認された。またEMT時間経過によりSEにエンリッチする転写因子のモチーフが異なることが示された。
本研究では、がん細胞が転移能を獲得する過程で(EMT)、時間経過に伴いSEのゲノムワイドな分配パターンが変化することを示した。SEにエンリッチする転写因子のモチーフはEMTの時間経過に伴い変化することから、特定の転写因子の機能を阻害することでがん細胞の転移能獲得を遅延または阻害できる可能性が示された。マウスやIn vitro実験による検証は必要ではあるが、将来的ながんの治療標的となる可能性が示された。
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