研究実績の概要 |
日常生活の中で最も頻繁な動作である”起立”に伴う血圧変動の異常である起立性高血圧は高齢者特有の血圧変動性の増大を反映する。この起立性高血圧は交感神経亢進や後負荷増大にもたらされるものであり,その要因は左室収縮力が保たれた心不全(HFpEF)発症と関連が考慮される。本研究は心不全の予後を悪化させる要因として起立性高血圧の関与を解明することである。当院に入院した高齢者心不全,とりわけHFpEF患者を対象に起立性高血圧との関係,心不全による退院後1年以内の再入院および全死亡を含めた予後につき関連を検討した。対象となる症例は70例であった(女性36例,年齢77.8±7.6歳)。起立性血圧変動は安静臥位後,起立3分後の血圧値の変動を確認した(血圧差:-28~26 mmHg)。その他,フレイル(Fiedらの基準),認知機能低下(MMSE: Mini-Mental State Examination),血清Cr,NT-pro BNP高値 (>900pg/ml),GLS(左室収縮能のストレイン指標)を加え多変量解析を行った。一年以内の再入院を予測する因子として,双方ともNT-pro BNP高値 (p=0.018, hazard ratio 5.7, 95%CI 1.3-24.2)と起立前後の血圧差(p=0.043, HR 1.1, 1.0-1.1)が選ばれた。再入院+全死亡においても同様にNT-pro BNP高値 (p=0.021, HR 4.1, 95%CI 1.2-13.5)と起立前後の血圧差(p=0.026, HR 1.1, 1.0-1.1)が選ばれた。また,文献的に提唱されている起立性高血圧(起立後の収縮期血圧20mmHg以上上昇かつ140mmHg以上を示す)を同様なモデルにあてはめたが予測因子ではなかった。起立時の血圧上昇がHFpEF患者の予後に関与している可能性が示唆された。
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