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20世紀フランス前衛美術における価値評価システムの形成と美術制度の役割

研究課題

研究課題/領域番号 19K13003
研究種目

若手研究

配分区分基金
審査区分 小区分01060:美術史関連
研究機関神戸大学

研究代表者

平田 裕美 (松井裕美 / 松井)  神戸大学, 国際文化学研究科, 准教授 (40774500)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2023-03-31
研究課題ステータス 交付 (2021年度)
配分額 *注記
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2021年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2019年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
キーワード美術教育 / キュビスム / ヌーヴォー・レアリスム / 作者 / レアリスム / 古典主義 / 前衛美術 / フェミニズム / フランス / 造形的メタファー / 前衛 / 美術制度 / モダニズム / パブロ・ピカソ / 美術史の形成 / 美術市場 / フランス美術 / 美術史の歴史
研究開始時の研究の概要

本研究は、次の三点にそって調査・検討する。
【I.前衛の美術館コレクションの形成過程の解明】20世紀前半のフランスの美術館において前衛芸術が美術館購入の対象となるまでのプロセスや、作品購入の傾向の年次変化を明らかにする。
【Ⅱ.前衛芸術家による美術教育】前衛芸術家が私的なアトリエでほどこした美術教育の手法を調査する。
【Ⅲ. 美術史の言説と前衛の制度化】同時代の美術史的な著述における前衛芸術運動や運動に関わった芸術家の位置付けについての考察をおこなう。

研究実績の概要

2021年度は① 前衛芸術家による美術教育が価値形成に与えた影響についての検討 ②「作者性」の概念の揺らぎと美術制度との関わり ③ レアリスム概念の変遷と価値転換 の3点にそくして研究を進めた。
①においては、とりわけキュビスムの画家アルベール・グレーズによる美術教育について、一次資料を収集しつつ調査を進めた。グレーズは、1930年代以降、独自のキリスト教信仰を美術教育に反映させていくなかで、集団的な生活や制作への関心を高め、宗教的な画題の作品も描くようになっていった。そうした試みが単なる「秩序への回帰」では捉えられないような革新性も備えていたことについては、論集『宗教遺産テクスト学の創成』(木俣元一・近本謙介編)に寄稿した論文「キュビスムと聖性―アルベール・グレーズのキリスト教信仰と失われた宗教壁画」(2022年3月)および、『美術フォーラム21 第45号前衛特集』掲載予定の論文「前衛芸術とポスト・ヒストリー キュビスムにおける錯綜する古典という参照点」において論じた。
②については、フランスの60年代の前衛運動において重要な役割を果たしたヌーヴォー・レアリスムに注目し、とりわけイヴ・クラインのパフォーマンスとそれを取り巻く言説を分析した結果を、『聖性の物質性』(木俣元一・佐々木重洋・水野千依編)に寄稿した論文「色彩における物質性と聖性──イヴ・クラインの芸術実践における聖別と涜神のあわい」にまとめた。
③については、キュビスムやヌーヴォー・レアリスムに代表されるような「新しいレアリスム」を主張した芸術運動の背景にある文学的・美学的議論について調査した。その成果については、今後『レアリスム再考』と題した論集の序章にまとめる予定である。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

今年度は、産休育休の取得に加え、コロナ禍のために海外での調査が叶わず、当初予定していた海外での調査は実施することができなかった。とはいえ、国内から収集できる範囲で収集した資料の中から、いくつかの重要な知見を得ることができた。たとえば、【研究実績の概要】の①で示した研究において、グレーズの理論書を読解し、objet, sujet(「客観/主観」「客体/主体」)という対概念が、重要な鍵語であることが判明した。グレーズはこの概念を、対概念ではなく互いに調和する概念として捉え、ルネサンス以降の近代的な作者像を超克する、中世の職人に範をとる作り手の創造性に接近するものとして理解した。そこで30年代以降のobjet, sujetといった概念の重要性について調査を開始した。
さらに2021年度は、この概念について、とりわけシュルレアリスムの芸術家の作品を中心に扱う松岡佳世の著書『ハンス・ベルメール 身体イメージの解剖学』の書評会「非合理な身体のための解剖学 :ハンス・ベルメールと〈交換可能性〉」を実施した。ベルメールは、球体関節を用いた人形制作で知られているが、実のところその芸術実践は、人形制作にとどまらず、同時代の心理学や思想から着想を得た理論的著述や、実験的な身体像の素描など、多岐にわたる。松岡氏は著書『ハンス・ベルメール 身体イメージの解剖学』(2021年、水声社)において、そうした取り組みの中でも、彼にとっての身体イメージが、単なる表現主題ではなく、内部と外部、女性と男性、人間とオブジェの交換可能性と反転可能性を探るメディアとして機能したことを明らかにした。2022年1月27日に開催された本講演会は、そうした成果について、とりわけ「客体/主体」の交換可能性をテーマに据え解説するものであった。

今後の研究の推進方策

今後は①前衛芸術家による美術教育が価値形成に与えた影響についての検討 について、アンドレ・ロートやフェルナン・レジェ、アメデ・オザンファンなども視野に入れた研究調査を本格的に行い、そこで教育を受けた日本人芸術家についても資料調査を行う。また ②「作者性」の概念の揺らぎと美術制度との関わり については、とりわけ非西洋圏の芸術家や女性芸術家といったマージナルな立場から政策を行う芸術家たちの実践に着目した研究を進める。③ レアリスム概念の変遷と価値転換 については、写真や映画といったメディア、ドキュメンタリーといったジャンルにおける言説にも注意を向けながら、文学・美術におけるそれとの比較検討を試み、レアリスムの概念がどのように前衛の価値形成や手法の刷新に影響を与えてきたのかを明らかにした上で、その成果を論集としてまとめる。

報告書

(3件)
  • 2021 実施状況報告書
  • 2020 実施状況報告書
  • 2019 実施状況報告書

研究成果

(21件)

すべて 2022 2021 2020 2019 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件) 図書 (3件) 備考 (3件) 学会・シンポジウム開催 (2件)

  • [国際共同研究] パリ社会科学高等研究院/パリ・ナンテール大学(フランス)

    • 関連する報告書
      2019 実施状況報告書
  • [雑誌論文] キュビスムと聖性―アルベール・グレーズのキリスト教信仰と失われた宗教壁画2022

    • 著者名/発表者名
      松井裕美
    • 雑誌名

      宗教遺産テクスト学の創成

      巻: 0 ページ: 467-490

    • 関連する報告書
      2021 実施状況報告書
  • [雑誌論文] 色彩における物質性と聖性──イヴ・クラインの芸術実践における聖別と涜神のあわい2022

    • 著者名/発表者名
      松井裕美
    • 雑誌名

      聖性の物質性 人類学と美術史の交わるところ

      巻: 0 ページ: 593-626

    • 関連する報告書
      2021 実施状況報告書
  • [雑誌論文] 母親の欲望を解剖する-メアリー・ケリーの《産後資料》におけるポリフォニーとラカンの精神分析学2021

    • 著者名/発表者名
      松井裕美
    • 雑誌名

      国際文化学研究(神戸大学大学院国際文化学研究科紀要)

      巻: 55 ページ: 135-168

    • NAID

      120007002563

    • 関連する報告書
      2020 実施状況報告書
  • [雑誌論文] 台座・ラベル・ジェンダー-ハンナ・ヘーヒにおけるイメージの構築と解体、そして再構築2020

    • 著者名/発表者名
      松井裕美
    • 雑誌名

      近代

      巻: 122 ページ: 84-104

    • 関連する報告書
      2020 実施状況報告書
  • [雑誌論文] ピカソの名声形成の諸要因と自画像の変遷2020

    • 著者名/発表者名
      松井裕美
    • 雑誌名

      立教大学フランス文学

      巻: 49 ページ: 29-54

    • 関連する報告書
      2019 実施状況報告書
    • 査読あり
  • [学会発表] 歴史の中のレア リスム ― 美術理論における意味の変遷2021

    • 著者名/発表者名
      松井裕美
    • 学会等名
      リアリズム文学研究会
    • 関連する報告書
      2021 実施状況報告書
  • [学会発表] アナロジーの横溢ーカジャ・シルヴァーマンの写真論を手がかりとして2020

    • 著者名/発表者名
      松井裕美
    • 学会等名
      連続講演会「文学としての人文知」第4回「イメージの歴史」
    • 関連する報告書
      2020 実施状況報告書
    • 招待講演
  • [学会発表] 台座・ラベル・ジェンダー2020

    • 著者名/発表者名
      松井裕美
    • 学会等名
      香川檀著『ハンナ・ヘーヒ 透視のイメージ遊戯』オンライン書評会 2020年7月18日
    • 関連する報告書
      2020 実施状況報告書
    • 招待講演
  • [学会発表] Entre l’influence et la contagion : le classicisme et la formation artistique dans la culture d’avant-garde2020

    • 著者名/発表者名
      Hiromi Matsui
    • 学会等名
      過去の巨匠と近代芸術 受容・反復・再解釈(19~21世紀)
    • 関連する報告書
      2019 実施状況報告書
    • 国際学会
  • [学会発表] Lecture croiee entre Ruskin et les artistes d’avant-garde du 20eme siecle en France2019

    • 著者名/発表者名
      Hiromi Matsui
    • 学会等名
      国際シンポジウム『Ruskin et la France』
    • 関連する報告書
      2019 実施状況報告書
    • 国際学会
  • [学会発表] 第二次世界大戦下の独立派芸術作品と国家購入2019

    • 著者名/発表者名
      松井裕美
    • 学会等名
      国際シンポジウム『第二次世界大戦期のフランスをめぐる芸術の位相』
    • 関連する報告書
      2019 実施状況報告書
    • 国際学会
  • [学会発表] Between Visibility and Invisibility: Diagram of Landscape in Harun Farocki's film works2019

    • 著者名/発表者名
      Hiromi Matsui
    • 学会等名
      Freie Universitat Berlin - Kobe University - Ritsumeikan University Joint Workshop on 'Landscape and New Media in Art, Film and Theatre'
    • 関連する報告書
      2019 実施状況報告書
    • 国際学会
  • [図書] 古典主義再考Ⅱ 前衛美術と「古典」2021

    • 著者名/発表者名
      木俣元一、松井裕美
    • 総ページ数
      312
    • 出版者
      中央公論美術出版
    • ISBN
      9784805508879
    • 関連する報告書
      2020 実施状況報告書
  • [図書] 古典主義再考Ⅰ 西洋美術史における「古典」の創出2021

    • 著者名/発表者名
      木俣元一、松井裕美
    • 総ページ数
      480
    • 出版者
      中央公論美術出版
    • ISBN
      9784805508862
    • 関連する報告書
      2020 実施状況報告書
  • [図書] 『ピカソと人類の美術』2020

    • 著者名/発表者名
      大髙保二郎・永井隆則編、松井裕美ほか分担執筆
    • 総ページ数
      512
    • 出版者
      三元社
    • ISBN
      9784883035083
    • 関連する報告書
      2019 実施状況報告書
  • [備考] 松岡佳世氏による講演会「非合理な身体のための解剖学 :ハンス・ベルメールと〈交換可能性〉」

    • URL

      https://www.modernarts.info/post/report_2022_1_27

    • 関連する報告書
      2021 実施状況報告書
  • [備考] 国際研究会『過去の巨匠と近代芸術』(東京大学・2020/01/22)実施報告

    • URL

      https://www.modernarts.info/post/maitresanciens

    • 関連する報告書
      2019 実施状況報告書
  • [備考] 研究会『イスラム美術コレクションの形成と普及』(神戸大学・2019/09/30)実施報告

    • URL

      https://www.modernarts.info/post/artislamique_france_japon

    • 関連する報告書
      2019 実施状況報告書
  • [学会・シンポジウム開催] 過去の巨匠と近代芸術 受容・反復・再解釈(19~21世紀)2020

    • 関連する報告書
      2019 実施状況報告書
  • [学会・シンポジウム開催] 研究会「イスラム美術コレクションの形成と普及―東洋と西洋の眼差しの交叉―」2019

    • 関連する報告書
      2019 実施状況報告書

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公開日: 2019-04-18   更新日: 2022-12-28  

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