研究課題/領域番号 |
19K13382
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分03040:ヨーロッパ史およびアメリカ史関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
田村 理 北海道大学, 文学研究院, 専門研究員 (00768476)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2022年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2019年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 人権理念 / フェミニズム / ヴィクトリア朝 / 売春 / 帝国主義 / リヴァプール / ジョセフィン・バトラ |
研究開始時の研究の概要 |
ヴィクトリア朝のイギリスにおけるフェミニズムの形成過程を明らかにする。注目すべきは、「万人は生来にして自由」と謳う人権理念が、女性に対して拡張適用されたという事実である。そのことに付随する有効性および問題点を、港湾都市リヴァプールで貧困女性の支援に携わっていた、J・バトラ(Josephine Butler, 1828-1906)の思索と生涯に即して明らかにする。
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研究実績の概要 |
ヴィクトリア朝におけるフェミニズム、特に中流階級の女性の主導する、売春女性の解放運動が、次世紀に開花する国際人権論の発展を促した経緯を探究し、一定の成果を得た。 第一に、神学者の妻バトラ(J. Butler)によって指導された、売春女性の解放運動をめぐる学説史を整理した。それは錯綜しており、日本のイギリス史や女性史学界においては未だ交通整理もされていない状況にある。そこで、研究代表者は、各論者が、(i)性産業を、押しなべて女性に対する暴力であるとして非難するのか、あるいは、(ii)女性は売春を含む自由な性的活動によって、家父長制やそれに依拠する、「純潔であれ」という悪習を相対化できると期待するのかをめぐった、鋭い対立の存在する点を看破した。それによって、キリスト教に即したバトラの女性救済運動に対する評価も、大きく変化するのである。 第二に、バトラの前半生と、彼女の運動の第一期(1869~74年)における活動を、一次史料および二次文献の大規模な調査を元に明らかにした。まず、ヴィクトリア朝初期のリベラリズムが行き詰まりを迎え、社会国家への第一歩が踏出される最中にあって、性病の蔓延防止と、女性の権利保障との均衡をいかに取るべきか、という議論が交わされていた時代状況を明らかにした。そうした中でバトラは、(i)性産業の全部が、女性に対する迫害であるとも、(ii)女性は売春を行うことで、家父長制による抑圧を乗り越えられるとも考えておらず、むしろ、貧困女性が意に反して売春を強制されたり、その上で性病蔓延の元凶とされ、官憲から検査や治療を強制される等の不利益な扱いを受けたりする現状を批判していた点が明らかになった。またその根底に、国家等の人為的な秩序に関わりなく、人間は自由であり平等であるという、ギリシア哲学やキリスト教に淵源を持つ価値観が存在する点を看取した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の1年目に予定されていた、イギリスでの史料調査は、長引くコロナ禍のせいで、今日なお実現に至っていない。 上記5「研究実績の概要」における、第一の成果は未発表であり、第一のそれは口頭報告のみに止まっている。口頭報告は、日本西洋史学会大会、北大史学会大会を含むの3つの機会で行った。論文に関しては、第一、第二共に、草稿こそ完成したものの、日本の学界では、本研究の問題意識は必ずしも共有されておらず、理解されるに至っていない。人権の世界史自体への無関心に由来する否定的見解、および、当該時期を対象とする思想史や政治史に対する、過去の通説に固執するような批判的意見も散見されたので、今一度、丁寧な説明を心がけたい。
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今後の研究の推進方策 |
上記5「研究実績の概要」において未完成となっている、2つの作業に取り組む。とりわけ、発表する媒体の選択に留意する。 初年度の終わりに予定されていたものの、コロナ禍のために直前でキャンセルし、以後は無期限の延期とせざるをえなかった、現地での史料調査に関しては、本年度こそ実行に移せる見込みである。これにより、二字文献および、活字史料の読解ばかりが中心となっていた、過去4年間の作業から、実証面での大きな進展を期待できる。調査対象は、イギリスの港湾都市リヴァプールである。ヴィクトリア朝のリヴァプールでは製造業が未発展である代わり、流通、金融、サービス業が特に盛んであったため、海運や荷役に従事する若年男性の人口が多い一方、被服等の作業場で若年女性が職を見つけにくい状況であった。これは性産業が成長しやすい条件と考えられ、実際にもそうなっている。しかしながら、この事実は一部の例外を除き、これまで本格的な歴史学研究の対象にはされてこなかった。加えて、リヴァプールには5「研究実績の概要」で言及したバトラが1864年から約20年間、居住していた。彼女が貧困女性の救済に本格的に従事したのはこの時期であり、いわば運動の原点に当る場所である。リヴァプールにおける売買春の実態、ならびにそれに対するバトラの活動は、なお掘り下げる余地があると思われる。
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