研究課題
若手研究
野生動物が関与する感染症の新興・再興を制御するためには、 “Disease Ecology (感染症生態学)”の視点から、野生動物を含めた生態系内の感染症の動態を捉えることが必要である。本研究では、山間部から都市部まで広く生息する中型野生動物の集団遺伝構造と感染症保有状況を調査・解析することで、地域の中型野生動物の分布および移動と、これらの野生動物が関与する感染症の分布および伝播との関連性について評価する。
本研究では、中型野生動物が生態系内で感染症伝播に果たす役割を明らかにするために、多様な環境に生息するタヌキおよびアナグマを対象に宮崎県内の対象地域における遺伝的交流と感染症保有状況について調査した。集団遺伝構造解析の結果、調査対象地域に生息するタヌキおよびアナグマについて、本研究では明らかな分集団は検出されなかった。このことから、調査地域内に生息するタヌキおよびアナグマは広く行き来があり遺伝的な交流があると考えられた。また、重症熱性血小板減少症候群の有病率が高いことが明らかとなり、調査対象地域では広範囲にタヌキ・アナグマの行き来があり、それに伴い病原体の移動も起こりうることが示唆された。
人の感染症の多くは人獣共通感染症であり、野生動物と人との接触は伝播の機会となりうる。ゆえに、その制御のためには感染症のレゼルボア/ベクターとなる野生動物の分布や生態に関する知見を集積し、生態系内の感染症の動態を捉える必要がある。本研究では山間部から農村部、都市部まで広範囲に生息する中型野生動物に着目し、これらの動物の分布や移動が地域の人獣共通感染症の伝播に影響を及ぼす可能性について検証した。中型野生動物の生息域は人や伴侶動物・家畜の生活圏と重なる部分が多く、これらの野生動物が広範囲に移動することで人獣共通感染症の原因となる病原体が運ばれる可能性があることを示したことに学術的・社会的意義がある。
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