研究課題
若手研究
僧帽弁逸脱症(MVP)により生じる重症僧帽弁閉鎖不全症(MR)は、心不全の合併や心臓死につながる。MVP重症度判定は一般に「弁輪に対する弁尖の逸脱(上方・左房方向への変位)」で評価されるが、MR重症度としばしば解離する。そこで我々は、MVPに左室拡大が合併すると、弁尖逸脱・非逸脱弁尖はともに下方(心尖方向)へ牽引(テザリング)され、逸脱弁尖の弁輪に対する逸脱(上方変位)が軽減(偽正常化)されるのではないかと考えた。さらに我々は、弁輪に対してではなく非逸脱弁尖に対する弁尖逸脱の指標がより良いMVPの指標になりうると考え、それらを解明することを目的とする。
これまで、僧帽弁逸脱症(MVP)の評価は一般に弁輪を基準とした逸脱弁尖全体の逸脱(上方変位)を基準として判断してきた。しかし、臨床的にMVPと僧帽弁閉鎖不全症(MR)重症度が解離する症例を認めるが、これまで詳細な検討はない。本研究は「左室拡大合併による逸脱弁尖テザリングが弁輪基準の弁尖逸脱とMRの解離の基本機序である」ことを明らかにし、さらに「非逸脱弁尖に対する逸脱弁尖先端の逸脱評価が解離の少ない適切な評価方法である」ことを明らかにすることを目的とした。我々は、経食道心エコー図検査を施行した連続MVP症例のうち、重症MR例に対し解析を行った。重症MRにおいて、弁輪を基準としたMVP容量弁輪は、左室拡大により減少(=偽正常化)した。非逸脱弁尖を基準としたMVP容量と非逸脱弁尖を基準とした逸脱弁尖先端の逸脱(弁尖先端MVP面積非逸脱弁尖)は、左室が拡大しても減少(偽正常化)することはなかった。これは、MVPが重症になる程左室が拡大することを示し、この指標が疾患重症度を良く反映していることを示唆する。また、弁尖先端MVP面積非逸脱弁尖はMR逆流重症度(VCA面積)と極めて良い相関を認めた(R=0.72, p<0.0001)。左室拡大の少ない重症MVPは、逸脱弁尖がMVP容量弁輪・MVP容量非逸脱弁尖・弁尖先端MVP面積非逸脱弁尖ともに重症である。これに対し高度左室拡大を伴った重症MVP例(重症MRを伴う)では、MVP容量弁輪はほぼゼロであり、MVP容量非逸脱弁尖は軽~中等度に留まる。しかしながら、弁尖先端MVP面積非逸脱弁尖は重症であり、MR重症度に合致した。本研究により、MVPに伴う重症MRの決定因子が解明され、より良い病態の理解が得られるようになり、外科的弁形成術のターゲット解明を通し治療への貢献になると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
我々は、経食道心エコー図検査を施行した連続MVP症例のうち、重症例83例に対し解析を行った。重症MRにおいて、弁輪を基準としたMVP容量弁輪は、左室拡大により減少する傾向を認めた。非逸脱弁尖を基準としたMVP容量非逸脱弁尖および非逸脱弁尖を基準とした逸脱弁尖先端の逸脱(弁尖先端MVP面積非逸脱弁尖)は左室が拡大しても減少することはなく、むしろ増大傾向を認めた。これは、MVPが重症になる程左室が拡大することを示し、この指標が疾患重症度を良く反映していることを示唆する。また、弁尖先端MVP面積非逸脱弁尖はMR逆流重症度(VCA面積)と良い相関を認めた。左室拡大の少ない重症MVPにおいては、逸脱弁尖がMVP容量弁輪・MVP容量非逸脱弁尖・弁尖先端MVP面積非逸脱弁尖ともに重症である。これに対し高度左室拡大を伴った重症MVP例は、MVP容量弁輪はほぼゼロであり、MVP容量非逸脱弁尖は軽~中等度に留まった。しかしながら弁尖先端MVP面積非逸脱弁尖は重症であり、MR重症度に合致した。この様に、仮説通りの結果が得られている。狙い通りの研究が遂行可能である。
我々は、症例数を揃え、解析を施行したところ、弁尖先端MVP面積非逸脱弁尖はMR逆流重症度(VCA面積)と極めて良い相関を認めた。左室拡大の少ない重症MVPにおいては、逸脱弁尖がMVP容量弁輪・MVP容量非逸脱弁尖・弁尖先端MVP面積非逸脱弁尖ともに重症である。これに対し高度左室拡大を伴った重症MVP例は、MVP容量弁輪はほぼゼロであり、MVP容量非逸脱弁尖は軽~中等度に留まった。しかしながら弁尖先端MVP面積非逸脱弁尖は重症であり、MR重症度に合致すると考えられた。この様に、仮説を支持する結果が得られているため、データをまとめ論文化を進行中である。
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