研究課題/領域番号 |
19K21568
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
高度科学技術社会の新局面
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
東口 豊 九州大学, 人文科学研究院, 准教授 (70346740)
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研究分担者 |
上石 学 聖心女子大学, 現代教養学部, 准教授 (70349166)
川瀬 智之 東京藝術大学, 美術学部, 准教授 (90792119)
江本 紫織 京都芸術大学, 芸術学部, 講師 (90827289)
米良 ゆき 九州大学, 人文科学研究院, 助教 (80962852)
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研究期間 (年度) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2019年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | AR / MR / スマートグラス / フレームレス化 / 基体の変更 / site-specific art / 「異質なもの」と「見慣れたもの」の融合 / 場所・空間の意味の変質 / Meta / 5G / ヘッドマウンテッドディスプレイ / 空間コンピューティング / フレーム / Pokemon GO / 神話的想像力 / プロジェクションマッピング / 写真 / Instagram / 写真アプリSNOW / ARと藝術の比較 / 現代社会における虚構の意義 / 新しい現実性と虚構性の理論化 / ARの感性に対する影響 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、ARと藝術の比較を通して、それらの中に必ず含まれる虚構が現代社会に対してどのような意義を持つのかを明らかにすることであり、そこから派生して両者の社会的・文化的意義の再定義、現代における現実と虚構の新しい有り様の指摘、藝術の意味の再解釈を目指している。VR元年と言われる2016年以降急速にARの応用が普及しつつあるにも拘らず、人間の知性や感性への影響、社会に対する恩恵や危険性について包括的な議論が始まってすらいない状況を解消し、新しい学的領域を創生してより大きな議論を喚起する第一歩となりうる、極めて挑戦的な研究である。
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研究実績の概要 |
本研究課題は、現実と虚構を混淆させ、日常の体験を変革させていくAR(拡張現実)の働きが藝術と同様の機能を持つことに着目し、その類似性や相違点の検討から両者がそれぞれに提示する現実性の文化的・社会的・思想的意義を考察してきた。 2022年度は、改めてAR技術の発展の現在地を調査し、それを元にARと藝術の類似と相違の各点について再考した。東口と上石は、RX Japan株式会社が主催する第2回XR総合展春(6月)・秋(10月)を視察し、ARに隣接する仮想現実的な技術が、現実性を消去する方向と虚構性を消去しようとする方向に二極化している現状を確認した。その中でも特に後者であるMixed reality(複合現実)やスマートグラスの開発と発展は、現実と虚構の融合である「新しい現実性」の体験においてフレームレス化や現実と虚構の主客の変更という事態を生じさせていることを指摘する。フレームレス化は、絵画におけるタブローと壁画やグラフィティ、演劇や音楽における劇場公演とフラッシュモブなど、藝術の文脈においても同様の事例と準えることが出来る一方、従来スマートフォンの画面上に写された現実にデータやCGなどの虚構を合成していたARにおいて、デバイスの発達に伴い虚構の認識が先立つようになり、虚実融合の基体が現実から虚構へ変更されていると解釈出来るようになっている。これは教会建築の内部にも類似する事例が考えられるが、虚構そのものの現実化という観点は更なる考察が求められよう。 また、川瀬は2019年度の科研研究会の際に発表したデュフレンヌのイマージュ論から神話的想像力への展開の議論を発展させ、美学会東部会例会で発表したほか、江本は2021年度のグラスゴー大学との国際会議の議論を更に深化させ、まだ未公刊ながらproceedingsに寄稿するなど、ARを巡る「新しい現実性」の意義と構造の解明が進んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年1月から始まった新型コロナウイルス感染症による世界的パンデミックは、依然として前年度を上回る新規感染者数や死者数を数える場面もあったが、ようやく社会的混乱から落ち着きを取り戻すようになり、ARを巡るイヴェントや技術見本市などの開催についても回復の基調を見出せるようになった。しかし本研究計画は、各研究分担者がAR関係のイヴェント等の調査を行うことを土台としつつ、それぞれが専門とする研究領域や藝術ジャンルに基づいた理論的考察を行うことを念頭に置いており、少なくとも所属機関における研究出張の自粛要請や所属学会の対面研究会の中止が一般化していた2022年度前半までは、本研究計画の遂行の前提条件が整わない状況が続いてしまっていた。2022年下半期にはそれらが緩和傾向に入ることによって、XR総合展の視察など一部で調査研究を再開出来るようになり、その結果を科研メンバーの間で共有出来るようになったが、本格的な研究調査の再開は2023年度に持ち越さざるを得なかった。
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今後の研究の推進方策 |
2023年5月8日に新型コロナウイルス感染症は感染症法上の分類で2類相当から5類に引き下げられることになり、今後も感染症対策には十分に留意する必要があるものの、本研究計画を遂行するための一定の環境が回復したと言っていいと思われる。しかし、新型コロナウイルスのパンデミック状況下で研究調査活動が停滞したことは否めず、研究期間を再延長するに至った。その間、複数回の研究調査旅行や対面での研究会を予定していたが、2年分の研究調査や研究会を単年度で補完するには無理が生じるほか、感染症対策の意味でも極力オンラインやハイフレックスでの研究会開催を目指すことにする。結果として調査や対面での研究会のための旅費支出の割合を減らし、残りの研究費は理論的研究に必要な文献等の購入に充てることなるが、必要に応じて直接経費使用内訳変更承認申請書の提出を検討する。
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