研究課題
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
放射線の影響を理解するためには、外部被曝ばかりでなく内部被曝の影響評価が重要であるが、現在のところ、防護上で両者の影響は同等とされている。最近、我々は放射性微粒子による内部被曝が強い生物学的影響を示す場合があることを報告した。本研究では、この内部被曝実験を展開し、分子生物学的解析によりその障害作用とメカニズムの詳細を解明することを目的とする。本研究は放射線被曝の防護と安全に関わる極めて重要な国際共同研究である。
放射線被曝影響評価では、放射性微粒子による内部被曝影響は外部被曝と同じとされている。しかし、原爆被曝者の疫学データやカザフスタン核実験場周辺の健康調査は、残留放射性物質の内部被曝の健康リスクが大きいことを示している。よって、ヒト被曝影響の正確な評価と被曝防護のためには、その影響を確定する必要がある。本研究は、原爆爆発時に土埃で多量に生成した放射性二酸化マンガン(56MnO2)をモデルとし、放射性微粒子の曝露影響を動物試験によって明らかにすることを目的とする。曝露試験が可能な施設を持つカザフスタンとの国際共同研究により実施する。2022年度は、カザフスタンではCOVID-19のパンデミックは終結したが、日本政府はカザフスタンの感染危険レベルを2として維持し、日本人も含めた日本への入国制限も継続したため人的研究交流が難しい状況が続いた。しかし本研究課題のマウスを用いた56Mn曝露試験について最初の解析を完了した。カザフスタン国立核研究センターの原子炉の中性子線によりMnO2微粒子を放射化し、雄C57BLマウスへ曝露した。主要臓器の放射活性を基に、臓器ごとの吸収線量を推計した。曝露後3日、14日、70日後の肺および精巣への生物学的影響について検索した。1) 臓器別の吸収線量の分布は、これまでのラットと同様に消化管で高く、続いて肺・皮膚の順であった。2) 肺での56Mn曝露線量は250mGy以下であったが、病理生理指標であるアクアポリン1発現が上昇しており影響が示された。2Gyの外部被曝ではこの変化は見られず、MnO2微粒子内部被曝のより高い生物影響が示唆された。3) 精巣への影響は、病理学的/遺伝子発現解析では見いだされなかった。Wistarラットでは、56Mn曝露のステロイドホルモン産生酵素への影響が顕著であったが、C57BLは「耐性」であった。
3: やや遅れている
COVID-19パンデミックの影響で、予定していたマウスへの放射性マンガン微粒子曝露実験の解析が遅れているため。しかし第一回目の曝露試験については、解析が完了し成果を得て発表した。
マウスをモデルとした56MnO2微粒子内部被曝による生物影響解析をさらに進めるため、「放射線高感受性」の系統であるBalb/cマウスへの曝露実験により、C57BLとの比較解析を行う。これまでと同様に、臓器毎の線量推定、組織での放射線応答性遺伝子発現解析を行い、56MnO2微粒子内部被曝影響およびマウス系統差を解明する予定である。
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