研究概要 |
研究代表者らは、胚性幹(ES)細胞を用いた心血管分化研究を行ってきた。すなわち、ES細胞からFlk1陽性の中胚葉レベルの細胞を分化誘導し、そこから血管を誘導する新しい分化系を開発した(Nature, 2000)。申請者は同システムを用いて動静脈リンパ管分化研究を行ない、動静脈リンパ管内皮細胞をES細胞から系統的に分化誘導することに成功した。動静脈リンパ管すべての分化に成功しているのは世界でも研究代表者らのみである。本研究は、研究代表者が同定した動静脈リンパ管内皮特異的機能遺伝子を用いて、新しい抗がん治療戦略を開発することを目的とする。1) 動静脈リンパ管内皮特異的遺伝子の網羅的同定。2) 同定遺伝子の機能解析。3) これらの遺伝子群を用いたがん転移動物モデル等の検討。以上3項目の研究により、特異的かつ多面的に血管リンパ管新生を制御する新たな抗がん治療法の開発を目指すこととした。平成21年度は、cAMP下流シグナルの探索を行い、Notchおよびβ-cateninが同時に活性化されることによりはじめて動脈内皮細胞が誘導されるという新しい動脈内皮細胞分化誘導機構明らかにした(J Cell Biol, 2010)。また、Protein kinase A(PKA)がVEGF165に対する特異的受容体であるFIk1とneuropilinl(NRP1)の発現を血管前駆細胞において亢進させ、血管前駆細胞のVEGFに対する感受性を約10倍促進するという新しい血管内皮分化制御機構も明らかにした(Blood, 2009)。これらの論文により筆頭著者の山水は日韓血管生物学会YIA,日本心血管内分泌代謝学会(CVEM)YIAを受賞し、研究代表者もCVEM高峰譲吉研究奨励賞を受賞するなど、国内外で高い評価を受けている。このように研究期間内において着実な研究計画の進展を認めた。
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