研究概要 |
本研究では,人間が習熟によって消費エネルギーの少ない運動を実現できることに注目する.スポーツや作業の熟練では,高速又は高精度な運動をするために,適切に脱力することが重要と考えられる.このような運動の習熟過程を解明するために,本研究では,人間の運動計測から得られた特徴を基盤に,筋骨格モデルやロボットモデル等の数理モデルにおいて,運動の習熟モデルを提案する. まず,習熟によって,エネルギー消費の少ない運動生成のために,機械的弾性要素を利用した方法が提案された.運動習熟によって消費エネルギーが最小となる適応制御則を示し,その有効性をシミュレーションによって確認した.提案方法は,対象とするシステムのパラメータ値の情報を利用せずに実現でき,ロバストな制御方法となっている. 次に,複雑な制御系を必要とするように思える筋骨格系システムの運動制御は,感覚器から筋肉への線形変換によって,運動習熟モデルを構築できることを,本研究で示した.線形変換等によって,目標とする運動が実現でき,エネルギー消費が少なくできる事実は,人間のような筋骨格系の動力学や運動学の特徴を生かした方法の存在を示したこととなる. 具体的には,ロボットの非線形ダイナミクスに対して,視覚情報で得られた手先位置と目標位置のみを計測すれば,座標変換などの運動学情報や質量・慣性モーメント等の動力学情報も必要なく,センサーフィードバックが構成できることを示した.運動の安定性を保証する条件は,リアプノフ関数を利用した安定解析から明らかにした.その結果,3つの明確な条件を示すことができた.本研究は,ロボットの運動制御への応用とともに,生体の運動制御に関する仮説を構築するために重要と思われる.
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