研究概要 |
本研究は以下の2つの目的をもつ。第1に,アメリカ日系二世の日本留学において,地域差,年齢差,宗教差,性差がどのような影響を及ぼすのかを調べること。第2に,同日系社会や日本社会に及ぼした具体的な影響について検討することである。第一に,地域差では首都圏とは違い,移民県の場合は「継承教育」が主要な目的であり,初等教育段階が中心となる。結果として,移民県在住の二世は初等教育年齢が圧倒的に多い。宗教差では,キリスト教とは違い,仏教の場合は本山が京都にあり,教役者訓練も日本で行われるために,日本留学は米国仏教会の僧職指導者育成が中心であった。また性差では,移民社会より選ばれたエリートが留学するという傾向は女性の方が強かった。第二に,二世の日本留学は以下のような具体的な影響があった。吉田は,南カリフォルニア・ターミナル島日本人移民が二世に行った和歌山県への日本留学は,現地の公立学校を中心に進められていたアメリカ化教育に「二文化兼備」を付加する内容変更へと導いたことを明らかにした。物部は二世の日本留学エージェントとしての熊本海外協会に着目し,北米社会における熊本県人ネットワーク再構築に及ぼした積極的意義を提示した。小島は,北米の浄土真宗本願寺派が実施した二世開教使養成のための龍谷大学への留学を事例に,仏教会の世代交代と現地化を推進する上での意味合いを説明した。野入は沖縄にルーツをもつ二世の沖縄留学体験が持つ意味合いについて,一言語化や故郷喪失など消極的側面と同時にそれが社会上昇の文化資本にもなったという多面性を指摘した。従来の研究が,日系二世の日本留学過程を追うだけに留まっていたのに対し,本研究はさらに進め,日本留学の意味合いを説明した。これらを踏まえて研究叢書『アメリカ日系二世教育とトランスナショナリズム』(学術出版)の2012年2月刊行に向けて研究成果をとりまとめ中である。
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