研究概要 |
本研究は,時代語や諸方言を含めた日本語の格標示体系のうちに,これまで認識されてきたものとは異なる新しい性質を見出そうとするものである。すなわち,日本語に活格性が認められることを確かめ,その性質を詳しく記述することを目的とする。本研究の主たる成果は,次の二点に集約される。 (1)有形格助詞の個別的な振る舞いに認められる活格性 (2)主節の格標示体系に認められる活格性 (1)の成果については次の通りである。奈良時代語の活格性にまつわる有形格助詞として格助詞ヲ,格助詞シ,格助詞イ等を取り上げ,それらの振る舞いを記述した。その結果,格助詞ヲと格助詞シは非動作格(inactive)として,格助詞イは動作格(active)としてそれぞれ特徴づけられる。また,(2)については次の通りである。平安時代語の主節に見える主語や目的語として現れた無助詞名詞句を採取・分析した結果,古代日本語の主節においては,<動作主>主語と<対象>主語の振る舞いが異なり,<対象>主語はむしろ他動詞文の目的語と同様に振る舞う。古代日本語の無助詞名詞句は意味役割によってその振る舞いが決定されていると考えられる。
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