研究課題/領域番号 |
20H00038
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研究種目 |
基盤研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
中区分3:歴史学、考古学、博物館学およびその関連分野
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研究機関 | 公益財団法人元興寺文化財研究所 |
研究代表者 |
植田 直見 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (10193806)
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研究分担者 |
山口 繁生 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (00752370)
川本 耕三 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (10241267)
大橋 有佳 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (10804388)
塚本 敏夫 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (30241269)
山田 卓司 龍谷大学, 文学部, 講師 (30435903)
渡辺 智恵美 別府大学, 文学部, 教授 (40175104)
田中 由理 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (70611614)
米村 祥央 東北芸術工科大学, 芸術学部, 准教授 (50332458)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
46,540千円 (直接経費: 35,800千円、間接経費: 10,740千円)
2023年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2022年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2021年度: 10,140千円 (直接経費: 7,800千円、間接経費: 2,340千円)
2020年度: 28,860千円 (直接経費: 22,200千円、間接経費: 6,660千円)
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キーワード | 含浸樹脂 / 劣化 / 出土金属製品 / 寿命予測 / 保存処理 / 有機溶剤 / 代替樹脂 / 出土金属製文化財 |
研究開始時の研究の概要 |
約30年前に保存処理された出土青銅製品に含浸された樹脂を分析した結果、分子構造が変化している可能性が推測された。さらに、出土金属製品の保存処理で最も使用頻度の高いパラロイドNAD10がすでに製造中止となり、今後在庫がなくなれば使用できなくなる。 本研究では全国各地の様々な条件で保管されている出土金属製品の現状を調査し、含浸された樹脂を採取・分析・評価する。並行して未使用の樹脂の劣化促進実験を進め、その変化を追跡し、化学変化と機能の低下との関係を見極め、樹脂の寿命を予測し、新しい樹脂の使用時期を判断する指標を確立する。加えて今後出土金属製文化財に使用する新規の樹脂の開発に向けた指針を構築する。
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研究実績の概要 |
令和3年度に引き続き、保存処理後の出土金属製品の状態調査を実施した。並行して、昨年と同様に含浸樹脂(アクリル樹脂:パラロイドNAD10)を抽出し、赤外分光分析(FT-IR)、熱分析(DSC)、熱分解-ガスクロマトグラフ/質量分析(Pyro-GC/MS)、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)、発生ガス濃縮-加熱脱着-ガスクロマトグラフ/質量分析(MSTD-ATD-GC/MS)を実施した。その結果、FT-IRやPyro-GC/MS、GPCではいずれの試料も昨年と同様に、変化はほとんど認められなかった。 次に、昨年初めて行ったMSTD-ATD-GC/MSでは、資料中に溶剤が残存していることが分かった。さらにより古い時代(保存処理を始めた初期のころ(約40年前))に処理されたアクリル樹脂についても、内部にまだ溶剤が残存していることがわかった。ただ、残存溶剤の種類は試料によって異なることが分かった。これは処理後の経過年数によるものか、収蔵環境によるものか、それ以外の影響を受けているのかは、測定点数が少ないため(4点)判断できなかった。 最後に販売中止となったNAD10に代わる樹脂の選定に、2種類の樹脂を検討した。一つは様々な文化財の保存処理に使用される樹脂として実績のあるアクリル樹脂(パラロイドB-72)で、もう一つは研究所で使用しているアクリル樹脂とフッ素樹脂の共重合樹脂(商品名:アクアトップ)で、これらのバリヤー性を比較した。その結果、バリヤー性は樹脂の種類と溶剤の種類に影響を受けることが分かった。フッ素を含む樹脂(アクアトップ)は他の樹脂に比べ、水蒸気の透過量が少なく、バリヤー性が高いことが分かった。これは樹脂の撥水性が高いことが影響している可能性が考えられた。一方、パラロイドB-72は溶解させた溶剤の種類に関係なく、NAD10よりバリヤー性は低いことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年に引き続き、保存処理後の出土金属製品の実態調査を実施したが、当初予定していた調査開始時期(7月から8月予定)に再びコロナ感染者が増え始め、数か月現地調査が遅れることになった。そのため、予定していた調査地の数が減り、含浸樹脂の分析点数も減少した。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、できるだけ古い時期に保存処理された出土金属製品から含浸樹脂を抽出し、赤外分光分析(FT-IR)、熱分析(DSC)、熱分解-ガスクロマトグラフ/質量分析(Pyro-GC/MS)、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)などの各種分析を実施し、分子構造の変化を調べて来た。しかし、当初の予想とは異なり、含浸樹脂はほとんど変化が無く、健全な状態を維持していると見られた。ただ、樹脂の中に含浸時に使用した溶剤が残存していることが判明し、これが樹脂の機能に大きな影響をおよぼしている可能性が高いと推定した。そのため、新たに樹脂と溶剤の関係を追及することで、樹脂を評価できると考えた。 同時に製造が中止されたアクリル樹脂NAD10に代わる樹脂の検討でも、樹脂と溶剤の関係が重要であると考えられるため、両者の関係を分析・調査する必要があると考えた。さらに溶剤がどれぐらいの期間樹脂の内部に留まっているかは、樹脂の寿命を予測する上で重要な要素となると考えられる。そのため、この点についても、今後検討が必要である。
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