研究課題/領域番号 |
20H01302
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03010:史学一般関連
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
榎本 泰子 中央大学, 文学部, 教授 (00282509)
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研究分担者 |
趙 怡 関西学院大学, 経済学部, 教授 (10746481)
藤野 志織 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (40908844)
井口 淳子 大阪音楽大学, 音楽学部, 教授 (50298783)
森本 頼子 名古屋音楽大学, 音楽学部, 非常勤講師 (50773131)
野澤 丈二 帝京大学, 経済学部, 准教授 (90742966)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
15,730千円 (直接経費: 12,100千円、間接経費: 3,630千円)
2022年度: 4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2021年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
2020年度: 6,110千円 (直接経費: 4,700千円、間接経費: 1,410千円)
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キーワード | 上海 / 租界史 / フランス租界 / 文化交流 / 日仏中 / 日仏関係 / 比較文化 / 西洋音楽史 / 東アジア近代史 / ポストコロニアル研究 / グローバル文化史 |
研究開始時の研究の概要 |
上海フランス租界(1849~1943)を結節点とする日本・フランス・中国三か国間の文化交流の実態を明らかにする。1920年代から50年代にかけての時期を対象に、フランス外交史料館所蔵の史料を中心に、中国国内の档案館・図書館所蔵の関係史料、上海発行の新聞・雑誌、日仏会館や旧関西日仏学館所蔵の資料など、従来の上海租界史研究ではほとんど利用されていなかった仏語資料を調査・分析する。それによって、パリ・リヨンなどフランスの都市と、上海・長崎・大阪・京都・東京など東アジアの都市が、上海フランス租界を介して相互に結びつき、文学や諸芸術の分野で人的交流を活発に行い、互いに影響を与えていた事実を明らかにする。
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研究実績の概要 |
本年度もパンデミックの収束には至らず、フランスや中国に渡航することができなかったが、現地在住者に調査代行を依頼し、シャルル・グロボワの晩年の生活を解明することができた。当地の新聞に本研究の紹介記事を出してもらうことで、親族から情報がもたらされ、親族宅にグロボワの上海時代の資料が保存されていることが判明した。そこには中国側文化人との交流を裏付ける新証拠が含まれている。 年度中に開催したオンライン研究会は9回におよび、そのうち4回は外部の研究者・研究協力者を招いての研究報告・交流会となった。こうした活動を通じて、フランス史・フランス音楽史・日仏交流史の研究者など、フランスを研究対象としつつも上海フランス租界には注目していなかった研究者らとのネットワークを構築した。その結果、当初の主要な目的だった文化・芸術の実態を解明すること以外にも、外交や政策など多様な面からのアプローチが可能であるとの手応えを得、当初計画を変更し、第3年次(2022年度)に予定していたシンポジウムを前倒しする形で2021年度中に行い、本研究の成果発信の場とした。 オンラインシンポジウム「上海フランス租界史研究の可能性─パリ・上海から日本へ─」は2022年3月27日に行われ、参加申込者が200名近くに及ぶなど、本研究に対する注目度の高さを示した。シンポジウムでは、研究代表者が上海フランス租界の歴史と研究史を総論として述べたあと、メンバー5名がそれぞれの研究成果を発表した。その内容は、グロボワと仕事上の同志であるクロード・リヴィエールの人物研究、フランス語ラジオ放送における芸術音楽番組の分析、『ル・ジュルナル・ド・シャンハイ』の紙面から見る日仏中の文化交流、関西日仏学館と東京日仏学院それぞれにおける上海由来図書コレクションの実態など多岐にわたり、未公刊資料や新発見資料に基づく最新の研究成果を示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度前半はパンデミックの影響で長期休暇に海外渡航をすることができず、前年度と同様、フランスおよび中国における資料調査を行うことができなかった。当初計画に照らせば、予定されていたことができなかったのは事実だが、現地在住者の協力のおかげで当初は予想もしていなかったグロボワの親族まで発見でき、長年秘蔵されていた上海由来の資料の写真撮影に成功したことは世界初の成果である。これまでフランス人研究者すら果たせなかったことを日本の研究グループがリモートで実現したことは、パンデミックという想定外の事態における研究活動として特筆すべき成果である。 また、国外での資料調査ができない分、国内での資料調査を進め研究環境の整備に努めたことも本年度の特徴である。東京の日仏会館に所蔵されているフランス語書籍の一部が戦後上海から移管されたものであるため、既存の書誌情報データベースに上海由来の本であることを登録する作業を進めた。これらの書籍はグロボワがアリアンス・フランセーズの中国代表を務めていた時購入に関わっており、フランスによる文化政策の一端を示す資料である。それは同時にグロボワの教養や関心のありかを示すものでもあり、さまざまな意味で貴重な物的証拠である。現在は日本の各所や中国国内に散逸していると見られる旧・上海アリアンス・フランセーズの蔵書の全貌を知る手がかりとして、日仏会館側の協力を得ながら今後も分析を続けていく必要がある。 以上のような成果は、上海フランス租界の文化・芸術活動の実態を明らかにするという本研究の目的に沿うものであり、本年度の研究はおおむね順調に進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度からの研究の蓄積により、2021年度はシンポジウム開催のほか、論文の形でも多くの成果を示すことができた。今後フランスや中国で資料調査が実現することに期待しつつも、すでに着手した研究を深め、さらに成果を広く世に問うことを通じて、人的ネットワークの構築や情報交換を進めることも一つの方策である。 具体的には、2022年3月に開催したシンポジウムの内容を拡大し、当日のコメンテーターや関連分野の研究者にも執筆を依頼して、上海フランス租界研究としては日本初となる書籍を刊行することが考えられる。当初計画では第3年次(2022年度)にシンポジウムを開催、書籍化はその後のことと想定していたが、シンポジウム自体を第2年次(2021年度)に前倒しで開催したため、書籍化も早めることが可能である。もしフランスや中国の研究者からの寄稿が実現すれば、それぞれの国における研究の動向を日本の学界に紹介することになり、日仏中三か国の研究者の連携を目指す本研究の目標を体現するものとなるだろう。
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