研究課題/領域番号 |
20H03329
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分45040:生態学および環境学関連
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研究機関 | 沖縄工業高等専門学校 |
研究代表者 |
磯村 尚子 沖縄工業高等専門学校, 生物資源工学科, 教授 (90376989)
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研究分担者 |
安田 仁奈 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (00617251)
菅 浩伸 九州大学, 比較社会文化研究院, 教授 (20294390)
中野 義勝 沖縄科学技術大学院大学, 沖縄マリンサイエンスサポートセクション, リサーチサポートリーダー (40457669)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2022年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2021年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2020年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
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キーワード | ユビエダハマサンゴ / 群落形成・維持機構 / 生物学と地質学からの検証 / サンゴの群落維持機構 / 生物学と地質学 / 隠蔽系統 / 気候変動 / 白化 / 群落維持機構 / 地質学 |
研究開始時の研究の概要 |
サンゴの生息数は、気候変動に伴う白化現象の頻発により全世界的に激減している。白化への応答や耐性は種間や同種内の群体間で違いがあることが明らかになりつつあり、中でもユビエダハマサンゴは自然・実験条件下で白化に強いことが示され、異なる環境で大規模群落を形成する。本研究では、「①ユビエダハマサンゴの大規模群落は、環境の激変をどの様にして乗り越えてきたのか? ②それを可能にした要因は何か?」を学術的な「問い」とし、沖縄周辺におけるユビエダハマサンゴ群落の局在を明らかにするとともに、各群落の生殖様式と遺伝的構造、地質学的な形成年代を調査し、群体や種レベルの白化耐性と集団維持機構との関連を明らかにする。
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研究実績の概要 |
本研究では、白化に強く現存数が多いユビエダハマサンゴを対象に、「①ユビエダハマサンゴの大規模群落は、環境の激変をどの様にして乗り越えてきたのか? ②それを可能にした要因は何か?」を学術的な「問い」とし、沖縄周辺におけるユビエダハマサンゴ群落の局在を明らかにするとともに、各群落の生殖様式と遺伝的構造、地質学的な形成年代を調査し、群体や種レベルの白化耐性と集団維持機構との関連を明らかにすることを目的とする。 本年度は、座間味島近くにある安室島の群落を対象に、ボーリング調査を行った。砂礫の底質に最初に加入したのはユビエダハマサンゴであり、その後継続して群落を形成・維持してきたことが示唆された。なお、詳しい形成年代については現在解析中である。また、安室島および伊平屋島において、予想産卵時期の前に群落全体をカバーするように複数群体から枝片を採取し、組織学的観察から雌雄比を算出した。その結果、安室島では雌雄比がほぼ1:1であるのに対し伊平屋島はほぼ雄群体であった。性比が雌に偏る群落も前年までに確認されており、ユビエダハマサンゴは地域や環境によって性比が異なることが示された。 夏期に瀬底島アンチバマ群落より、前年度以前に確認されていた2系統の雌雄群体を複数用いて産卵観察交配実験を行った。両系統では配偶子放出時刻には違いがみられなかった一方で、系統内よりも系統間での受精率が低いことが確認できた。以上から、ユビエダハマサンゴは最初に加入した場所に継続して生息していること(問①の一部に対応)、場所により性比が異なることおよび近縁種との不完全な繁殖隔離によって各環境に対応または全体の有性生殖の効率を高めている可能性がある(問②の一部に対応)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではユビエダハマサンゴ群落の維持機構と維持期間を生物学と地質学的手法から明らかにすることを目的としている。具体的には、1.異なる環境条件下で発達したユビエダハマサンゴの大規模群落の構造を明らかにし、2.地質学的な手法により1. の大規模群落がどの様な過程を経て今あるのかを明らかにする。さらに3.ユビエダハマサンゴの野外における性比と繁殖様式を解明し、4.大規模群落の遺伝的構造を明らかにする。 本年度は、対象地域を複数に拡大し調査・検証を行うことができた。当初予想していなかった性比の偏りや遺伝的に異なる2系統の分布についてさらに複数の群落で検証したところ、地域や群落によって状況が異なることがわかった。特に分布は、隠蔽系統は八重山諸島に多く生息し北限は沖縄本島中部にある一方で、いわゆるユビエダハマサンゴとして認識されている種は八重山諸島から沖縄本島全体に生息し、北部では占有していることがわかった。隠蔽系統も含め、ユビエダハマサンゴ群落全体が均一な状況を示すのではなく、各所・各群落で異なるということが、設定した学術的問いに対して重要な知見となると予想される。また、ユビエダハマサンゴは雄・雌・両性の群体が存在すること、他属サンゴに比べ非常に受精率およびプラヌラ幼生への発生率が低いこと、さらに2系統間では不完全な繁殖隔離がみられるなど、新規性の高い繁殖生態学的見地がいくつも得られた。 さらに、他機関と協力して異なる2系統間での繁殖や生理活性の違いについての検証および種記載に着手している。また、2系統について共生藻の遺伝的解析に着手し、ユビエダハマサンゴとその近縁系統についての違いをホスト・共生者両面から明らかにしようとしており、その予備実験に成功している。このように、初めに設定していたよりも多くの事象が明らかになってきている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、群落形成に大きく影響していると考えられる海流について測定する。ユビエダハマサンゴの大群落がみられ、これまでに調査・採集も行ってきた、1.座間味島安室漁礁、2.金武湾、3.大浦湾をおよび4. 瀬底島アンチバマを対象とする。これら4地域について、①流速計による海流の速度と向きの測量、②深度計による水深の測量、を行ない、各群落の海流図を作成する。 金武湾と大浦湾については、採取した枝片(3㎝)を固定・脱灰後、組織切片を作成し組織学的に性比および放卵・放精前の配偶子の成熟状況を検証する。さらに、2020年から対象としている瀬底島アンチ浜群落の群体を用いて引き続き交配実験を行ない、受精能を確認する。これまでに2系統間では弱い生殖隔離がみられたため、今年度は系統内における、①精子濃度と受精率との関連、②受精後のプラヌラ幼生への発生率、の2点を検証する。 これまで対象にした瀬底島アンチ浜および石垣島周辺において、対象種にて隠蔽系統が確認された。これに基づき、再度枝片を採集して骨格標本を作成し、形態形質解析と分子系統解析結果を得た。これをふまえて隠蔽種であるかを明らかにした上で論文化する。また、昨年度追加した地域(糸満、読谷、勝連)より採取した枝片について、DNA抽出後MIG-seq法を用いたSNPジェノタイピングにて、各群落内の遺伝的構造を検証する。さらに、これまで対象とした八重山諸島と沖縄諸島に加え、宮古諸島と奄美諸島の群落から枝片を採取し、南琉球および中琉球集団間のコネクティビティの程度、加えてユビエダハマサンゴと隠蔽系統の北限地域を検証する。さらに、2系統間で共生藻組成に違いがあるかを遺伝的解析から検出する。
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