研究課題/領域番号 |
20H03689
|
研究種目 |
基盤研究(B)
|
配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分53030:呼吸器内科学関連
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田中 一大 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (40809810)
|
研究分担者 |
関戸 好孝 愛知県がんセンター(研究所), 分子腫瘍学分野, 副所長兼分野長 (00311712)
森瀬 昌宏 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院講師 (00612756)
佐藤 光夫 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (70467281)
松原 大祐 筑波大学, 医学医療系, 教授 (80415554)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
17,810千円 (直接経費: 13,700千円、間接経費: 4,110千円)
2022年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
2021年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
2020年度: 6,630千円 (直接経費: 5,100千円、間接経費: 1,530千円)
|
キーワード | 悪性中皮腫 / 新規治療標的 / 細胞増殖 / オキシトシン受容体 / PDXマウス / オキシトシン / 腫瘍増殖因子 / 細胞周期停止 / オキシトシン受容体阻害剤 / 新規治療戦略 |
研究開始時の研究の概要 |
悪性中皮腫は希少な腫瘍であるが極めて予後不良であり、新規治療法の開発が切望されている。研究代表者はこれまでの解析で、約40%の悪性中皮腫において著しく高発現している受容体に着眼し、独立した予後予測因子であることを発見した。さらにin vitro の解析で、同遺伝子をノックダウンすると、中皮腫細胞株の増殖が有意に抑制されることを見出した。これらの結果を基軸に、本研究では1)悪性中皮腫における同受容体下流の細胞内シグナル経路の解明、2)同受容体阻害剤の抗腫瘍効果の検証、3)さらに悪性中皮腫の組織検体を用いて免疫染色を施行し、同受容体を標的とした治療対象を選出するプロトコルの最適化を行う。
|
研究実績の概要 |
2020年度の解析で、中皮腫細胞に対してレンチウィルスを用いてオキシトシン受容体をノックダウンすると、細胞周期G1期停止を誘導し、mRNAレベルでcyclin dependent kinase やAurora kinase Aなど複数の細胞周期制御因子の発現が低下していることを突き止めていた。2021年度は、オキシトシン受容体を高発現する2種類の中皮腫細胞株を用いて、同受容体をノックダウンした後に、LC-MS分析を施行し、網羅的なタンパク質の発現変動を解析した。その結果、タンパク質レベルでも複数の細胞周期制御因子の発現低下が確認され、2020年度と一致した知見が得られた。また、LC-MS分析の解析結果から、変化率が大きく細胞周期制御に関連する分子を選択し、オキシトシン刺激・同受容体をノックダウンした場合との発現変化の一致について検証を行った。さらに、選択した候補分子に対する核酸・阻害剤を用いて、中皮腫細胞株に対する増殖抑制効果を解析し、オキシトシン受容体の下流に位置する因子の絞り込みを行った。その中で、悪性中皮腫の増殖に影響し、同因子に対する阻害剤を用いた場合の抗腫瘍効果がより強い標的因子を発見した。 また、TCGAのデータベースを用いたオキシトシン受容体の発現と予後との解析については、組織型やステージを加えた多変量解析を行い、同受容体の発現が高いほど予後が悪く、独立した予後予測因子になりうることを同定した。これらの解析結果を、日本癌学会の機関誌であるCancer Scienceに報告した(Cancer Sci . 2021 Sep;112:3520-3532.)。さらに2021年10月に、オキシトシン受容体阻害剤を用いた治療法を悪性中皮腫に対する新規の抗腫瘍療法として、特許取得のためのPCT出願を行った(出願番号:2020-180412)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度までの解析で、悪性中皮腫細胞株に対してオキシトシン受容体をノックダウンした際の細胞増殖抑制のメカニズムについて、cyclin dependent kinase 1やAurora kinase Aなど複数の細胞周期制御因子の発現が低下に基づく細胞周期停止である可能性を突き止めていた。2021年度の解析では、オキシトシン受容体をノックダウンした後に、LC-MSを用いたプロテオーム解析・リン酸化プロテオーム解析を施行することで得た網羅的なタンパク質の発現変動解析においても、2020年度と一致した見解が得られた。悪性中皮腫において、オキシトシン-オキシトシン受容体のシグナル経路が細胞周期を制御し、腫瘍増殖に影響を及ぼしていることが確認された。また、下流シグナル分子を同定する上で、LC-MS分析を行い有望と考えられる分子を複数得たことから、当初の予定通り、オキシトシン刺激・同受容体をノックダウンした場合の発現変化が一致しているかどうかについても検証を行った。候補分子の中で、阻害剤が購入可能なものについては、中皮腫細胞株に対する増殖抑制効果についてIC-50等で検討を重ね、よりIC-50が低く有望と考えられる標的分子についても同定した。一方で、新型コロナの流行により入手不可能となった阻害剤・資材もあり、当初の計画よりやや遅れが生じた。 TCGAのデータベースを用いた予後解析については、オキシトシン受容体の発現が予後に影響し、独立した予後予測因子になりうることを同定した。しかし、オキシトシン受容体の発現を免疫染色で検出するため、複数の抗体を用いて検討を行ったが、有効な抗体は確認できなかった。オキシトシン受容体の発現レベルを予後予測因子として臨床応用する上では、さらなる検討が必要と考えられた。
|
今後の研究の推進方策 |
LC-MS分析の解析結果から絞り込みを行った、オキシトシン受容体の下流の候補分子については、細胞増殖抑制メカニズム・阻害剤を用いた抗腫瘍効果についてさらに詳細な解析を行う。具体的には、レンチウィルスを用いて同因子を恒常的にノックダウンした後に、細胞周期解析を施行することで、オキシトシン受容体をノックダウンした場合との一致率について検証する。また、同因子に対する阻害剤においては、複数の中皮腫細胞株・不死化した正常中皮の細胞株を用いて追加検討を行う。同因子の発現レベルだけでなくオキシトシン受容体の発現レベルも含めて多角的な視点で検討を行うことで、悪性中皮腫に対してより広範に使用できかつ抗腫瘍効果の高い阻害剤の選出を行う。有望な阻害剤については、殺細胞性の抗がん剤との併用効果及び、in vivoでの抗腫瘍効果を解析する。 また、同定された下流因子については、TCGAのデータベースを用いて、予後への影響やオキシトシン受容体の発現との関連について解析する。さらに、名古屋大学が保持する悪性中皮腫の組織検体を用いて免疫染色で同因子を検出するためのプロトコルの確立を目指し、最終的には免疫染色の結果と臨床情報を統合することで、患者背景・抗がん剤の効果・予後との関連について解析を行う。オキシトシン受容体の免疫染色については、受注委託でカスタム抗体を作成し、さらなる追加の検討を行う。
|