研究課題/領域番号 |
20H04472
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研究種目 |
基盤研究(B)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分90010:デザイン学関連
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
豊浦 正広 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (80550780)
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研究分担者 |
茅 暁陽 山梨大学, その他部局等, 理事 (20283195)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
17,550千円 (直接経費: 13,500千円、間接経費: 4,050千円)
2023年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2022年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
2021年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2020年度: 5,590千円 (直接経費: 4,300千円、間接経費: 1,290千円)
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キーワード | テキスタイルデザイン / 人工知能 / スタイル / コンピュータグラフィックス |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,人工知能を含む情報技術基盤が,現在に至るまでに人が培ってきた織物技巧や織物スタイル(様式・作風)をどこまで継承することができるのか,さらに,新規織物パターンの創出にどこまで貢献できるのか,を明らかにする.(1)情報技術によって織物技巧の可能性を広げ,(2)過去・現在の織物スタイルをデータベース化して転写可能とし,(3)蓄積と学習によってさらなる進化を生み出す織物パターンの共創的デザイン基盤を構築する.
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研究実績の概要 |
2年目の今年は,織物パターン上に生じるアーティファクトを取り除くための手法の検討を進め,一定の成果を得ることができた.本報告書作成時点で,学内の技術審査を通過して,特許明細書を作成している段階である.特許出願後に英文論文誌に投稿する予定がある.本技術は,人工知能を含む様々な計算手法によって自動または半自動で生成される織物パターンでよく起こるアーティファクトの問題を解決するものである.伝統的な織物では,手間と時間を掛けて人手で完璧に修正したパターンを作成して,これを大事に引き継ぐ体制を取ってきた.コンピュータで作成する織物パターンは,専門知識がなくとも一定のレベルまでは作成することができるものの,そこから最後の仕上げを行う手段を持たなかった.我々が提案する手法では,織物パターンのデザイナがどのようなことに気を付けてパターンを修正するかのルールをまず列挙して,これを数学的にモデル化し,さらに複数の要素を最適化できるように設計した.それでもなお,モチーフの文脈やパターン全体の流れをディープニューラルネットワークで表現するのは難しいので,パターンが修正される結果を見ながら各要素間の重みづけを変えられるように,対話的システムを構築した.この技術によって,モチーフとなる画像から織物パターンを完成させるまで,織物パターンに関する特段の専門知識を必要としないで行えるようになった. 前年度に特許出願を行った人工知能技術を織物作成のために活かす技術については,JST主催の展示会であるイノベーション・ジャパンで発表を行った. さらに,織物構造を心電図測定の電極に利用する技術を英文論文誌に投稿し,採択となった.伝統織物のデザインそのものに関する技術ではないものの,織物という素材を使った新しい製品開発の可能性を広げるものであると考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に示したように,織物パターンを作成するのに必要な伝統職人の技術を,数学的にモデル化し,プログラムによって実装し,結果が対話的に確認できるところまで到達している.これまでに開発してきた技術のいくつかは,実際の製品開発に役立てられてきており,わずかながらも地域産業に貢献できてきている. 研究開始当初考えていたように,実際の織物パターン生成のプロセスを操作ログとして利用することは,著作物を直接作成している現場に持ち込むことは難しいことがわかってきている.つまりこれは,当初の目標に掲げていた共創的デザイン基盤という形での実現はできないかもしれないことを意味する.しかしながらも,織物パターン作成を観察して得られた知見を数学的にモデル化して,プログラムの形に落とし込むことはできており,また,その結果の可否を評価してくれる技術者は確保ができている.技術者の意見を取り入れて手法をさらに改良することによって,技術者の高齢化によって永遠に失われてしまうかもしれない知識をコンピュータ上に保存することができると考えており,これは当初目標に挙げた理念と一致する. 本研究ではさらに,人手では実現できなかった織物パターンの生成にも踏み込みつつある.実績に示したアーティファクトの修正では,技術者から抽出したルールに従って,画像上で数百画素をもれなくリストアップする技術であり,コンピュータなしでは非常に困難な問題を解いていることになる.以上のことから,コンピュータによる織物パターン生成の基盤が完成しつつあると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
研究室で生まれる技術を産業技術センターや織物企業と共有し,フィードバックを反映しながら,製品化にまでつながる研究開発を進めたい.本研究では計算論的なモデル化がなされてこなかった技術を生産の現場から掘り起こし,モデル化して実装することを1つの目標としている.世界各地に伝統織物技巧が存在するが,そのほとんどは計算論的な理解とモデル化がなされていない.コンピュータ支援によって新しく織ることができる織物技巧をシステム上に多く揃えることによって,新たなデザインを実現する可能性を高めることができ,また,新たな利用者を引き込むことができる. 山梨県産業技術センターや各織物企業に現物として所蔵される織物作品のデータベース化がやや遅れている.これまでに開発した対話的パターン解析システムを足掛かりに,織物パターンの解析を進める.データベースがある程度揃った段階で,織物からのスタイルの抽出と適用の課題に取り組む.織物パターンにおけるスタイルとは何かについて議論を進める. 織物技巧および織物スタイルを自由に利用できる対話的織物パターンデザインシステムを構築して,開発した技術を順次組み込む.システム上に入力された新たなモチーフに対して,既存の異なるスタイルを自由に適用できるようにし,織物パターンデザインの創発を支援する.新しい生活様式の需要を満たすような製品開発につながれば,織物産業全体への貢献は大きいと考える.
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