研究課題/領域番号 |
20H05647
|
研究種目 |
基盤研究(S)
|
配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
大区分B
|
研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
小沢 恭一郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (20323496)
|
研究分担者 |
成木 恵 京都大学, 理学研究科, 教授 (00415259)
青木 和也 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究機関講師 (70525328)
菅野 光樹 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 特別研究員 (90826009)
|
研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2024年度)
|
配分額 *注記 |
194,740千円 (直接経費: 149,800千円、間接経費: 44,940千円)
2024年度: 15,730千円 (直接経費: 12,100千円、間接経費: 3,630千円)
2023年度: 26,130千円 (直接経費: 20,100千円、間接経費: 6,030千円)
2022年度: 44,720千円 (直接経費: 34,400千円、間接経費: 10,320千円)
2021年度: 58,110千円 (直接経費: 44,700千円、間接経費: 13,410千円)
2020年度: 50,050千円 (直接経費: 38,500千円、間接経費: 11,550千円)
|
キーワード | ハドロン質量の起源 / カイラル対称性 / 原子核中の中間子質量 / 対称性の自発的破れ / 高密度QCD媒質 / 原子核中の中間子の質量 / 対称性の自発的敗れ / 中間子の質量分布 / 有限密度QCD媒質 |
研究開始時の研究の概要 |
陽子や中性子の仲間であるハドロンは、ヒッグス機構によって得られる質量の100倍程度の質量を持つ。この100倍の差は、ハドロンの周囲の媒質が変化する事で動的に獲得されたものと考えられている。 本研究では、この現象を実験的に実証するために、自由空間とは異なる媒質(ここでは有限密度を持つ原子核)中でのハドロンの質量の変化を明確に測定することを目指す。 具体的には、東海村にあるJ-PARCハドロン実験施設において、ビームライン運転条件の最適化と検出器の新設を行い、実験を実施する。
|
研究実績の概要 |
本年度は、電子・陽電子対スペクトロメータを完成させ、稼働中の一次陽子ビームラインを用いたデータの収集を実施した。 電子・陽電子対スペクトロメータの製作は、大きく3つのパートがある。増強するビーム量に対応した飛跡検出器の製作、電子同定用鉛ガラス検出器の建設、電子同定用ハドロンブラインド検出器の建設である。 このうち、本年度は、 電子同定用ハドロンブラインド検出器を完成させた。電子同定用ハドロンブラインド検出器は、理化学研究所を中心に製作した。検出器は、モジュール化されており、本研究では2モジュール分を製作した。ハドロンブラインド検出器はガスチェレンコフ型の検出器で、ガスを閉じ込め ておくための筐体、チェレンコフ光を光電面で電子に変換し増幅するためのGas Electron Multiplie(GEM)部分、信号を読み出すPad状の電極で構成される。前年度に製作してあったこれらの部品を組み立て、検出器と製作し、実験エリアへとインストールした。 飛跡検出器は、KEK・青木を中心にドイツGSI研究所との協力のもとに半導体検出器を製作した。この半導体検出器は、ドイツFAIR加速器・CBM実験 のために開発が進められているもので、国際協力で導入した。本年度は、前年度の成果を元に、実際に実験に使う検出器8モジュールのうち、実機として2モジュール分を製作し、データ収集を実施した。検出器システムを、実際のビームを使ったデータ収集中に動作させ、高計数率環境でも動作することを示した。また、位置測定精度も要求性能を満たすことを確認した。 ビームタイムにおいては、新規に導入した電子同定用鉛ガラス検出器とハドロンブラインド検出器の性能評価も行い、十分な性能が得られていることを確認した。 稼働中の一次陽子ビームラインにおいては、ビームの時間構造に対応する新たな光学系のテストを実施した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、研究目的を達成するために、一次陽子ビームの高品質化、高バックグランド状況に対応するための新たな飛跡検出器の導入、電子同定装置の増強を 実施している。それぞれ十分な進展が見られ、研究としておおむね順調に進展していると言える。 一次陽子ビームの高品質化に関しては、これまでに収集したデータを用いてビーム光学系の改善を進めている。ビームが持つマイクロバンチの時間構造の問題が 判明したが、光学系の運動量分散との関係が解明され、新たな光学系を設計し、テストした結果、ビームの時間構造に改善が見られた。 新たな飛跡検出器としての半導体検出器も、前年度のテスト結果を元に、実機の製作が進められ、全8モジュール中2モジュールの製作に成功した。残り6モジュールも2023年度中に完成し、2024年度に予定されている本格的なデータ収集には間に合う予定である。また、製作したモジュールは十分な性能を示した。 2024年度に予定されているデータ収集に向けて、準備が整っている状態である。電子同定用検出器の増強に関し ては、鉛ガラス検出器もハドロンブラインド電子同定検出器も既にインストール済みで、予備的なデータの収集と性能評価を実施している。 ハドロン実験施設で火災事故が発生し、ビームタイム10ヶ月程度の遅れがあるが、2023 年度の計画の中で後 れを吸収し、2024年度には当初予定の成果を出す予定である。 以上の点から、おおむね順調に進展しているものと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
検出器の建設は、ほぼ予定通り進んでいるので、今後は物理データの収集を目指す。当初は、第3年度、第4年度にビームタイムを得る予定であったが、加速器の アップグレード作業の遅れとハドロン実験施設の火災事故の影響により、1年程度の遅れが出ている。第4年度後半から第5年度前半に十分なビームタイムを得ることで、最終的なデータ取得の 終了時期に大きな遅れはない。また、事前に取得したパイロットデータの解析を進めることで、本格データ収集後の解析アルゴリズムの開発時間、検出器更正のための 時間を短縮し、第5年度に結果を出すという当初予定に遅れは出ない見込みである。 ビーム状況の調査の中で、トリガー事象が想定より大きいことが判明した。これは、当初計画で想定していたビームの損失に伴う検出器のバックグランドヒット に起因するものではなく、加速器からのビーム取り出しの時間構造に起因するものであることが、本研究課題での測定により判明した。ビームの取り出しの時間 構造の偏りにより瞬間的なビーム量が増大し、相互作用が複数回起こっている事象をトリガーしている状況である。 このビームの時間構造への対応が重要であるが、光学系の更新によって分岐部の焦点を運動量分散を持たない形に変更した。さらに、パイロットデータの情報をベースにしたシミュレーションによ り、新たなトリガー論理を導入し、実効陽子ビーム数とトリガー効率を維持したままデータを収集する見込みが立っている。これらは、パイロット的なビーム収集によって確認されつつあり、全体としては、当初計画と同等 のデータ収集が可能となる予定である。
|
評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
|