研究課題/領域番号 |
20K01019
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分03030:アジア史およびアフリカ史関連
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
佐藤 仁史 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (60335156)
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研究分担者 |
宮原 佳昭 南山大学, 外国語学部, 准教授 (60611621)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 近代中国 / 江南 / 水域社会史 / 移住 / 民俗文化 / 系譜意識 / 地方史 / 集合的記憶 / 風俗 / 口述史 / 地域社会 / フィールドワーク / 風俗論 / 民間文化 / 民間信仰 / 郷土意識 / 近現代中国 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、近代中国における風俗論を江南地方の地域社会に即して分析することを通じて、在地指導層や在地知識人が民間文化に対して抱いていた「迷信」観の重層性を明らかにする。同時に、知識人層によって改良の対象とされた民間文化について、民間信仰の背景や実態を掘り起こす。このように、知識人など「大伝統」の側における民間文化の表象と民衆の「小伝統」の実態との関係を複眼的視点から捉える。
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研究実績の概要 |
本研究は近現代中国の長江下流域のうち太湖流域を中心とする江南地方の風俗論・民俗論について、当該地方の開発過程に即して検討することを目的としている。当初設定した本研究の柱は、(1)在地知識人や地域指導層による風俗論や地域認識の内実と変遷に関する文献調査・分析、(2)風俗論に関連する民俗文化の観察調査や景観調査のフィールドワークであった。 2023年度は、(1)に重点を置き、当該地方を特徴づける様々な類型の水域社会における開発と秩序形成の角度から風俗論を捉える着想を発展させ、特に長江デルタ沿海地帯に注目して、既収集の族譜や文集・詩集、各種公文集、地方志などの精読を行い、①清代民国期の沙田地帯の開発と秩序形成に関する論文を複数発表し、②災害と財政に関する研究を進めた。①については、南匯県沿岸地域で編纂された『二区旧五団郷志』という郷鎮志や『南匯県竹枝詞』、『海曲詩鈔』といった文学作品の成立背景と意図に着目し、編纂者の有した地域性・時代性に関する論考を国内外の査読誌に複数発表した。また、中国南開大学歴史学院で開催された“歴史時期人水関係的理論与実践:第四届水域史工作坊”や、中国人民大学蘇州キャンパスで開催された第10回アジア政策フォーラムにおいて、水域社会史に関する新たな知見の一部を報告した。②については、清末南匯県の知県李超瓊が残した日記をはじめとする関連文献の読解作業を進めた。 (2)については、2018年夏から2019年冬にかけて蘇州西部郊外農村において数回にわたり実施してきたインタビュー記録の整理を引き続き進めた。また、香港の市鎮における民間信仰と地域社会との関係やその変遷を行うことで、比較の視点から江南基層社会の変遷を捉えることを試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2022年度の研究において得られた研究飛躍の転換点となる発想を土台として、2023年度には国内外の査読誌に複数の関連論考が掲載されたからである。すなわち、水域社会史という概念を大幅に敷衍し、水域社会としての江南地方というマクロな地域史把握の視角から文献史料を読解した成果の一部が、『東亜学報』、Cahiers d'Extreme-Asie、『史潮』などに掲載された。申請段階では研究成果の海外への発信として、英語論文1篇、中国語論文1篇、英語による学術報告1回、中国語による学術報告1回を目標として掲げていたが、2023年度の単年度で全てを達成することができたこともまた、本区分を選んだ理由である。このほか、水域社会史という枠組みの導入は、様々な文献史料を従来とは異なる角度から読み込むことを可能性にした。例えば、清末知県の日記『李超瓊日記』、各種の地方志、新聞の記事などがこの方法による読解の対象となり、今後の研究の展開に多くの示唆をもたらした。以上を総合すると、研究全体として大きな進捗があったと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度の計画は次のように想定している。 (1)2024年の6月1日~8月27日に予定している中国への渡航期間において、北京図書館、中央民族大学図書館、上海図書館、浙江省図書館、杭州師範大学図書館に赴き、関連する文献史料の収集を行う。その際、水域社会の開発と秩序形成という視点から、水辺地域における郷鎮志やその編纂に関わった士人の史料を集中的に収集・読解する。 (2)量的分析に耐えうる文献史料の入力作業を行い、今後の分析に向けた基礎的なデータセットの作成を引き続き進める。例えば、『海曲詞鈔』というテキストの整理によって、元明から清代中期にかけての江南海浜地帯における開発や移住、およびそれらがもたらした生態環境の変化、移住社会における秩序形成を長いタイムスパンで把握することが可能となる。 (3)現在まで実施してきたインタビューのテープ起こしを引き続き進める。これらの記録を起こすことによって、文献史料からは知ることのできない基層社会の民俗や儀礼の実態を理解する手がかりとする。
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