研究課題/領域番号 |
20K01257
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分05010:基礎法学関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
酒匂 一郎 九州大学, 法学研究院, 特任研究員 (60215697)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 比例性原則 / 比較衡量 / 三層審査 / 法哲学 / 比較法的研究 / 三段階審査 / 審査基準論 / アレクシー / R・アレクシー / 法的思考 / 基本権 |
研究開始時の研究の概要 |
比例性原則はドイツ連邦憲法裁判所が展開し、近年諸外国の最高裁判所でも採用されつつある違憲審査方法であるが、基本権保障の弱体化などの懸念も指摘されている。こうした比例性原則に関する議論の多くは憲法学の分野に属するが、それに密接に関連するものとして、ドイツの法哲学者R・アレクシーの基本権や法的議論に関する理論などをめぐる法哲学的な議論がある。 本研究は、これらの議論を踏まえて、とくに法哲学的な観点から、法的思考の一形態としての比例性原則の特徴と射程を明らかにするとともに、わが国最高裁判所判例も素材としつつ、比例性原則といわゆる審査基準論との統合の可能性を探ろることを目的とするものである。
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研究実績の概要 |
本研究は、ドイツ連邦憲法裁判所が展開し、ヨーロッパ諸国だけでなく、カナダ、イスラエル、南アフリカなどでも採用され、司法審査の「グローバル・モデル」とも言われるようになった比例性原則に基づく司法審査について、比較法的手法も用いつつ法哲学的な観点から理論的に検討し、比例性原則による司法審査の普遍的な可能性を探ることを目的とする。 令和2年度はこの分野の理論的研究で注目されているドイツの法哲学者R. アレクシーの基本権と比例性原則に関する理論を検討し、その成果は「アレクシーの基本権論と比例性分析論」(『法政研究』第88巻第1号)として公表した。令和3年度は、比例性原則による司法審査の「例外」とされるアメリカ合衆国最高裁の司法審査理論の検討を行った。その成果は「合衆国司法審査理論と比例性アプローチ(上・下)」(『法政研究』第88巻第3・4号、2021年)として公表した。さらに、令和4年度は、比例性原則に関する理論的諸研究や裁判例の比較研究を行うとともに、司法審査一般に消極的な規範的法実証主義の議論を比例性原則の観点から批判的に検討して、令和4年度日本法哲学会において報告した(令和5年度の『法哲学年報』に掲載予定)。 主要な結論として、比例性原則による司法審査がかなりの国で受け入れられていること、手段の必要性審査の段階が重視されているところでも狭義の比例性審査に及ぶことが少なくないこと、権利章典がないまたは司法審査を限定している国々でも比例性原則類似の審査手法を用いていること、理論的には狭義の比例性審査における比較衡量について、とくにイスラエルのA. バラクの限界分析的な比較衡量の見解が興味深いことなどを確認するとともに、合衆国の三層審査と比例性審査の基本的な統一的理解の可能性、そしてその理解による我が国の司法審査への示唆についてもおおよその見通しを得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は司法審査のグローバルモデルとも言われるようになっている比例性原則による司法審査の利点と問題点を、比較法的手法も用いて、法哲学的な観点から理論的に検討して、比例性原則による司法審査の普遍的な可能性を探るものである。 令和2年度は比例性原則に関する理論的研究で著名なドイツの法哲学者R.アレクシーの基本権および比例性原則に関する理論を検討した。令和3年度は比例性原則の「例外」と言われるアメリカ合衆国最高裁の司法審査理論を検討し、比例性原則による審査との調和可能性の見通しをえた。 令和4年度は権利章典をもたない国や司法審査を限定している国なども含めた比較法的研究と比例性原則に関する諸理論の比較研究を進めてきた。その成果は上記の通りである。また令和4年度の研究の成果を論文にまとめているところであり、その彫琢の必要のため、事業期間の1年延長を申請したものであるが、研究計画は順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、ドイツ連邦憲法裁判所の比例性審査の理論的な再構成を試みてきたドイツの法哲学者・憲法理論家であるR. アレクシーの理論的研究の検討を行い、比例性審査の例外とされるアメリカ合衆国のいわゆる三層審査の状況と合衆国における比例性アプローチの可能性を確認し、さらにカナダのD. ビーティ、イスラエルのA. バラク、ドイツのN. ペーターゼンなどの比較研究、アレクシーの『基本権の理論』を英訳したイギリスのJ. リヴァースの紹介するイギリスの状況、さらに司法審査に消極的ないわゆる規範的法実証主義者たち(T. キャンベル、J. ウォルドロンなど)の議論と、これらの論者が経験的に依拠していると思われる権利章典のない国(オーストラリア)や司法審査に限定を加えている国(ニュージーランド)などの状況を検討してきた。 以上の研究に基づき、現在は本課題研究のまとめの論文を書いているところである。そこでは、とくに合衆国の三層審査と比較しつつ、司法審査における比較衡量と目的審査や手段審査などの行為の規範的評価との関係づけ、三層審査と比較しての比例性審査の構造と審査基準のより立ちいった分析、そして、狭義の比例性審査における比較衡量の理論的モデルとしてのアレクシーの衡量定式とバラクの限界分析的比較衡量論の比較を扱う予定である。欧州人権裁判所における比例性審査の考察など、比較研究としてはまだ完全に十分とはいえないが、少なくとも比例性原則を用いる司法審査の普遍的な可能性を明らかにするとともに、比例性審査が我が国の司法審査に提供しうる示唆を得ることができると考えている。
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