研究課題/領域番号 |
20K03489
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分10040:実験心理学関連
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
高橋 美樹 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (90415216)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 乳児 / 言語発達 / 聴覚フィードバック / 社会的フィードバック / 発声学習 |
研究開始時の研究の概要 |
私たちは常に自分自身の発声を聞いて発声の音量や高さを調整している。この調整は聴覚フィードバックと呼ばれ、ヒト成人だけでなく、さえずりを学ぶ小鳥においても重要な役割を担っていることが知られている。一方、ヒトの子どもでは、聴覚フィードバックを利用しているとわかっているのは3歳以降である。3歳以前の乳幼児は、聴覚フィードバックを用いずに、どのように発話できるようになるのであろうか。本申請課題では、聴覚フィードバックが機能する前に、乳幼児がどのように自身の発声を聞いているのか、また発話の学習を進めるメカニズムについて明らかにする。
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研究実績の概要 |
自分の発声を聞いて、実時間で発声の調整を行う聴覚フィードバックは、発声の学習や流暢な発声には欠かせない。しかし、聴覚フィードバックを用いた発声制御は3歳児以下ではいまだ確認されていない。本研究では、1)聴覚フィードバックが有効になる以前の乳幼児で自己発声音をどのように聞いているのか、2)自己発声と社会的フィードバックによる発声制御はどのように機能するのか、行動レベルと脳活動レベルから解明することを目的とする。 昨年度は、4カ月齢から10カ月齢の乳児とその母親23組を対象とした10分程度の予備実験をおこない、乳児から自発発声を引き出す条件を検討した。母親と子どもが同じ方向を見ている(お互いの顔は見えない)か対面か、発声に応じて動く視覚刺激の有無によって、以下の3グループで乳児の発声を比較した。1)母親のひざ上に乳児が座り、母子が同じ方向に顔を向けており、視覚刺激の提示無し、2)母親と乳児が対面で相対する、3)母親と乳児が対面で相対し、発声に応答する視覚刺激を同時に提示する。発声数を比較すると、1)ひざ上よりも2)、3)の対面の方が発声数が多くみられた。また、3)発声に応答する視覚刺激の同時提示の方がさらに発声数が多くみられた。参加者の月齢間で発声数を比較したところ、4,5カ月齢と9,10カ月齢において発声が多く引き出され、その間の月齢にあたる6から8か月齢では誘発された発声数が少なっかた。 さらに誘発された乳児の発声の時間間隔の月齢変化を調べた。すると、ごく早い月齢で乳児と母親が発声の掛け合いをおこなっていること、掛け合いの間が月齢によって変わることを示唆する結果を得た。今年度は引き続き発声を誘発する状況下で、乳児の発声を収録すること、収録した発声を聴覚刺激とした選好実験につなげられるよう計画をたてている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
母子23組を対象とした予備実験からは、乳児から発声を引き出しやすい状況がわかってきた。母親と子どもが同じ方向を見ている(お互いの顔は見えない)よりは、母子が対面する方が発声数が多くみられた。また、3)発声に応答する視覚刺激の同時提示の方がさらに発声数が多くみられた。この条件を採用することで、自発発声を収録し、自己発声を聴覚刺激とした行動実験につなげられる見込みがたった。 さらに、参加者の月齢間のみで発声頻度と発声間隔を比較したところ、4,5カ月齢と9,10カ月齢は共に多くの発声が引き出されたが、発声間隔が9,10カ月で長くなっており、4,5カ月齢とは発声行動が異なることがわかった。どちらの月齢においても発声数が増加した要因の一つは母親の応答がなくなったことだが、発声間隔が長くなるということは母親の応答を待っている時間が長くなった可能性もある。関連論文によると9カ月齢で母子間の発声の掛け合いの間合いが長くなることが報告されており、予備実験の結果とも一致する。しかし、母子間の発声の掛け合いに関する研究の多くは自然発話の中での発声頻度と時間間隔を解析し、会話(Turn-taking)の前段階とするものが多い。しかし、子が主体となっている発声に母が相槌を打っているだけなのか、母子ともに主体的に発声の掛け合いをしているのか区別がつけられなかった。本研究のように母からの応答がなくなった状況下で子の発声頻度や時間間隔をみることで、子が発声の掛け合いに積極的に関わっていたのか、あるいは母親側が相槌をうっていたのか区別がつけられるだろう。これにより、母子間の関係の変化についても新しい知見が得られると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
自発発声を誘発する条件がわかったので、以下2つの流れで調査を行う。 1)母子間の発声の掛け合いの発達 発声頻度が異なる4,5か月児、6-8か月児、9,10カ月児を対象に、自発発声を誘発する調査を引き続き行う。調査は、母子間の自然な対話場面を基本として、母から子への働きかけあり、母からの子への働きかけなし、母から子への働きかけあり、と3つに区切る。母子間の発声の掛け合いが、子の主体的な発声に母が相槌をうつだけの場合、子の発声間隔は母から子への働きかけの有無の影響を受けないだろう。一方、母子間の発声の掛け合いが互いの発声への応答(Turn-taking)になっている場合は、母からの働きかけがなくなると、発声間隔が間延びしていくと予想される。 2)自己発声(未熟な発声)への選好実験 上記の調査を行って収録した乳児の発声をもとに選好実験を行う。自己発声を用いるのは難しいので、他者でありながら同じ月齢の未熟な発声と構音が明瞭になっている発声を作成し、それぞれへの選好を調べる。
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