研究課題
基盤研究(C)
「沿岸の生態系がどのように変化してきたか」や,「沿岸生態系の構成要素(水質や動・植物プランクトンなど)が環境変化とどのように関係しているか」は,我々の様々な産業にとって重要な情報にも関わらず,具体的に明らかになっていない事柄も多い,本研究では,人為的環境改変・汚染の歴史が明確な島根県の中海において,湖底の柱状堆積物(コア)を採取し,そこから産出する微細藻類や小型動物の化石,バイオマーカー(特定の有機分子),無機元素組成などから,過去の水域生態系の時空間変化を明らかにする.そして,これらと中海および周辺域の歴史的背景と相互に検討し,変化とその要因を解明する.
島根県の中海において表層堆積物コアを採取し,マルチプロキシー解析により,過去約600年間の水圏生態系変動を明らかにした.西暦1500年頃からの貝形虫群集の変化や珪藻の減少は,CNSから示された底質の有機的環境の変化とも整合的である.1900年頃を境として,貝形虫の多様性が減少し,有孔虫と珪藻の富栄養種が増加した.この変化には,過去600年間を通じた水圏生態系の変化の中で最も急激なもので,人為起源の富栄養化が大きく影響したと考えられる.
水圏生態系の動態は,過去から現在までの気候変動や地球温暖化に密接に関連するため,海洋・大気環境に直結し,地球科学分野全体に対して重要なものである.今回,中海において過去600年間の水圏生態系の変化が明らかになった.とくに,1960年代以降の基礎生産者の変化は都市域沿岸に先んじた過去への回帰傾向であり,今後の沿岸環境の評価・保全に対して有用な知見であると考える.
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