研究課題
基盤研究(C)
「沿岸の生態系がどのように変化してきたか」や,「沿岸生態系の構成要素(水質や動・植物プランクトンなど)が環境変化とどのように関係しているか」は,我々の様々な産業にとって重要な情報にも関わらず,具体的に明らかになっていない事柄も多い,本研究では,人為的環境改変・汚染の歴史が明確な島根県の中海において,湖底の柱状堆積物(コア)を採取し,そこから産出する微細藻類や小型動物の化石,バイオマーカー(特定の有機分子),無機元素組成などから,過去の水域生態系の時空間変化を明らかにする.そして,これらと中海および周辺域の歴史的背景と相互に検討し,変化とその要因を解明する.
2023年度は,これまで採取した3地点のコアの解析を解析をすすめて研究目的を達成するとともに,全体的な総括を行った.その結果,以下のことが明らかになった.西暦1400年代から1900年代半ばの貝形虫群集の変化は,中海の湖底が相対的に酸化的な 環境に遷移したことを示唆する.この時期にTOC,TN,Sは全体として減少傾向にあったこたおから,斐伊川の東流や飯梨川の河口位置の変化の影響が中海湖 心部にも及んでいた可能性が高い.有孔虫に関しては,Ammonia beccariiとTrochammina hadaiが交互に優占しており,湖水循環の変化が示 唆される.この変化は,堆積相における葉理の発達や,TOCとCNの一時的な減少に一致しているものの,現時点では明確な原因が分からない.西暦1800年以降の Cu,1900年以降のMo 濃度の急激な上昇が検出された.これには,それぞれの時期に行われた集水域での銅およびモリブデン鉱山の開発が影響したと考えられ る.西暦1900年頃を境に,CNSや多くの重金属の濃度が急増,貝形虫の産出量や多様性が減少するとともに,有孔虫や珪藻の富栄養種が増加した.この急激な変 化は,産業・生活排水による栄養塩の負荷と港湾建設などによる停滞性の悪化によって環境が大きく悪化したことを示唆する.この時期のCyclotella atomus var. gracilisなど一部の浮遊性珪藻種の増加は,富栄養化に応答したものと考えられる.西暦1960年代以降は,多くの プロキシが中海の環境回復を示唆する. 中海の人為的変化はその顕在化や過去への回帰が東京湾や大阪湾などの都市域に先駆けて起こったことが分かった.以上の成果に関して,5件の論文発表,26件の学会発表,1件のコラム執筆を行った.
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (24件) (うち国際共著 6件、 査読あり 21件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (51件) (うち国際学会 11件、 招待講演 5件) 図書 (3件)
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