研究課題/領域番号 |
20K04890
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分23040:建築史および意匠関連
|
研究機関 | 岡山県立大学 |
研究代表者 |
西川 博美 岡山県立大学, デザイン学部, 准教授 (00749351)
|
研究分担者 |
中川 理 神戸女子大学, 家政学部, 客員教授 (60212081)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
|
キーワード | 台湾 / 日本統治時代 / 公共建築 / 地方行政 / 技師 / 技手 / 台中 / 植民地 |
研究開始時の研究の概要 |
日本統治期の台湾では、地方制度が整備され、市区改正事業が進む1920年代以降に、地方政府により、多くの公共建築が建設された。台湾総督府が中心となり建設した初期の建築とは異なり、それらは立地や意匠に多種多様な特徴を見出すことができる。本研究は、台湾の地方における公共建築の実態を明らかにするために、地方統治体制の中で発動された、地方政府以外の警察、保・甲、経済団体、企業などの活動が公共施設の建設を担った実態を明らかにしようとするものである。
|
研究実績の概要 |
本研究は、日本統治時代の台湾において、市区改正事業が進む1920年代以降に、地方政府庁により数多く建設された公共建築について、その建設の実態を明らかにしようとしたものである。また、その中で警察、保・甲、経済団体、企業などの活動が公共施設の建設を担った実態を明らかにすることを目的としている。 まず、公共建築の建物種別、規模・意匠、建設費とその出所、建設年、地方行政庁の立場、介在した団体・個人、市区改正との関連についてデータを拾い出し、データベース化を行った上で、昨年度は、地方自治制が進む時期に、最も発展が著しかった台中市に着目し、地方行政による公共建築のリストを作成し、建設費に寄付金が宛てられたことや、州や市の技師・技手が公共建築の設計を担ったことを明らかにした。 そして本年度は、そうした台中市において活躍した技師と、彼らが携わった公共建築物について整理した。台中州技師の中でもとりわけ活躍したのが白倉好夫であった。白倉は台中の多くの学校建築の設計を担ったが、代表するものとして、行啓記念館(1923年)や、台中駅前の巨大な奉迎門などが挙げられる。白倉が台湾総督府に戻った後、台中では、三田鎌次郎らが活躍していくこととなった。しかし、そうした公共建築の建設費を地方自治体が州費や市費で賄うことは困難であった。州からの出費は半分に満たない状態であったため、そこで、寄付金が募られていたことを明らかにした。これらをまとめ、学術講演会に投稿した(西川博美「日本統治期台湾の地方都市における公共建築建設(その2)―地方制度改正と技師に着目して」、2023日本建築学会大会(近畿)学術講演)。 今後は、台南州や高雄州などでの実情を調べ、台中州と比較していくと共に、1935 年の地方制度改正による公共施設建設の経緯について明らかにし、台湾の地方都市における公共建築建設の実態を解明していく計画である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、昨年度に引き続き日本に所蔵された史料や、インターネットで閲覧可能な史料を収集すると共に、年度後半に台湾の図書館に訪問し、新聞史料、建物の写真が掲載された史料を収集した。そして、研究実績の概要に記載したように、それらの研究成果を日本建築学会大会学術講演に投稿した。 本研究の主題である地方行政区の公共建築に着目する上で、まず当時の台湾の地方制度を把握することは重要な事項となる。台湾では、1920年に地方制度改正が行われ、州に建築設計を担う技師が配属されるようになった。また、1935年に再び行われた地方制度改正では、市や街にも法人格が位置づけられ、州会や市会が設置されている。こうした地方制度体制の確立により、地方における公共建築の建設が、台湾総督府の技師らによるものではなく、州や市の技師・技手により設計されるようになった。しかし、地方に財政権が認められるが、公共建築の建設費用を賄える財政状況ではなく、寄付金に頼っていた。こうした経緯について、昨年度と本年度は、台中州・台中市に着目して、詳細に調査することができた。 初年度、2年目と本年度の前半は、コロナ禍の影響により渡航が難しく、史料の収集に遅れをきたしたことが影響し、全体的には、研究の進捗がやや遅れた状況が続いている。しかしながら、台湾への渡航が通常化してきているため、2023年度は進捗のやや遅れた状況を取り戻すよう、研究を進めていく。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、台湾南部の主要都市の台南州、台南市や、高雄市などでの公共建築の建設に関する実情を明らかにしていく。そして台中市での状況と比較し、それぞれの都市における公共建築の建設の特徴を見出していく。 とりわけ高雄市では、台湾南部において貨物輸送の主要港としての高雄港の発展とともに、都市が形成されていったという経緯により、そこで建設された公共建築に、他の主要な地方都市と異なる建設経緯があるのではないかとも考えられる。それらを理解する上で、地域の発展に貢献したと考えられる経済団体や企業などの動向についても着目する。 また、1935年の地方制度改正によって、公共施設建設にどのような影響があったのかを、本年度に引き続き解明していきたい。とくに当初からの課題であった地方自治体本体の外部にある警察、保・甲、経済団体などが、公共建築の建設にどのように関わったのかについて明らかにする。さらに、今年度までに、その一端がわかってきた寄付金による建設費用の確保などについても明らかにしていく。 更に、こうした史料からの研究成果を元に、台中、台南、高雄等の地方都市に残存する公共建築を訪れ、現在の保存状況、改修状況、用途等について確認する。そして、植民地台湾の地方都市において公共建築が果たしてきた役割や価値について把握し、それが現在に保存・活用される意味についても分析していく。
|