研究課題/領域番号 |
20K05304
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分29010:応用物性関連
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大西 紘平 九州大学, 理学研究院, 助教 (30722293)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | スピン流 / 超伝導 / 準粒子流 / トリプレットクーパー対 / 非局所測定 / スピンバルブ測定 / 面内構造 / スピントロニクス / トリプレット / スピン偏極率 |
研究開始時の研究の概要 |
超伝導体中におけるスピン偏極超伝導電流(超伝導スピン流)は、スピントロニクスの省エネルギー性と量子力学的特性を最大限に引き出すものである。本研究では、Fe/Cr層を用いてトリプレットクーパー対の生成を試みるとともに、スピン信号の測定技術を駆使することにより、超伝導電流におけるスピン偏極率を非局所スピンバルブ測定により決定する。さらに、トリプレット超伝導体に同技術を適用することで、そのクーパー対のスピン状態を検証可能とする。これらは、超伝導スピン流のモデル化を可能とし、将来の超伝導スピントロニクスを大きく発展させると期待される。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、強磁性体/超伝導体複合ナノ構造において生成されるトリプレット超伝導電流のスピン偏極率測定に向けた技術を確立させる点にある。そのなかで当該年度は、超伝導体を含む複合ナノ構造中におけるスピン緩和現象に着目して実験研究を行った。 超伝導体中におけるスピン流は、スピントリプレット超伝導電流とスピン偏極準粒子流に分類される。ともにいわゆる従来型のs波超伝導体中を緩和しながら流れるが、それらの緩和過程については、まだ十分な理解は進んでいない。とくに近年、超伝導転移温度の極近傍においてのみ、超伝導体に対するスピン流の吸収が増大することが理論研究から指摘された。これは、スピン緩和が増大することを示しており、複合ナノ構造においてスピン流に比例した信号を測定することで検出可能となるが、これまでの研究では転移温度近傍を細かく測定された報告はなかった。報告者は、微小信号の測定技術と温度の精密な制御を組み合わせることで転移温度近傍における抵抗の大きな変化から信号を抽出することを試みた。また、超伝導体/常電体界面を制御した素子を用いることで、スピン流の吸収過程の変化する温度範囲を広げて実験を行った。その結果、転移温度近傍において、スピン吸収が急激に増加することを示す鋭いピーク構造の観測に成功した。 上記の実験に加えて報告者は、強誘電体基板上に超伝導体細線構造を作製し、その細線中における準粒子緩和過程を調べた。本構造では、強誘電体に電圧を印加することで、その電界効果を介して超伝導体細線の超伝導状態の制御ができる可能性がある。実際に素子の作製・測定を行った結果、電圧印加に伴い強誘電体と超伝導体からなる界面状態の変化に由来すると思われる超伝導転移の広がりが確認された。 以上の結果は、今後の超伝導体中のスピン偏極率測定において、その信号の解析の精度を上げるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該年度に、所属機関の変更が決まり、それに伴った研究および装置の移行手続きが生じた。それに伴い、一部実験を遅らせる必要があった。とくに、研究計画提出当初に想定していたFe/Crスピングラス層を用いたスピントリプレット超伝導電流の生成に関して、デバイス作製における成膜装置の不調もあり、引き続いての実験が実施できていない。また同時に、研究成果を公表するための論文執筆も遅れている。 しかしながら、強誘電体基板を用いた素子における超伝導体中の準粒子緩和変調や常伝導体/超伝導体界面の制御によるスピン吸収量の変調については、新たな知見を得られている。そのため、次年度以降に引き続き実験を行うことで、超伝導体を含む複合ナノ構造中におけるスピン流の緩和過程の解明とその制御方法の確立に向けて、一定の成果が得られるものと考えている。 以上の理由から、当初の目的も鑑み、やや遅れていると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの進捗状況にも記載した通り、強誘電体基板を用いた素子における実験結果において、準粒子の緩和過程の制御可能性が見られている。また超伝導転移温度の極近傍においてスピン吸収量が大きく増加している結果が見られている。これらの点について、さらなる実験を行うことで、超伝導体中におけるスピン流の制御、ならびに、スピン偏極率の精密測定への足掛かりにしたいと考えている。 所属機関が変更になったことにより、これまで使用していた装置の一部が使用できなくなったが、旧所属や新所属の周辺大学等における装置を積極的に外部利用することで、デバイス作製を進め、測定系については新しい所属においても早急に立ち上げられるように対応していく。
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