研究課題
基盤研究(C)
我々はこれまでに、出芽酵母を長期培養し、培地中の炭素源が枯渇した際に誘導される静止期細胞への分化およびマイトファジーが、ミトコンドリアにおけるリン脂質、ホスファチジルエタノールアミン(PE)の合成不全によって促進されることを見出している。そこで本研究では、出芽酵母におけるミトコンドリアPEを介した細胞分化およびマイトファジーの制御機構を解明する。また、出芽酵母で得た知見をもとに、哺乳動物細胞において、ミトコンドリアPEを低下させることで癌細胞増殖抑制および幹細胞分化促進が可能かを検証する。
本研究では、哺乳動物培養細胞、出芽酵母を用い、細胞内リン脂質恒常性維持機構とその生理的意義について解析を試み、(1)ミトコンドリア由来ホスファチジルエタノールアミンPEが細胞内エネルギーセンサーAMPK/Sfn1の活性を介し、グルコース枯渇時の酵母のG0細胞への分化を制御していること、ミトコンドリア由来PE合成経路がRb1欠損性ヒト乳がん細胞に対する抗がん剤開発の標的となる可能性を見出した。(2)出芽酵母におけるPE合成酵素Psd1の細胞内局在の発現量制御機構を明らかにした。(3)哺乳動物細胞ホスファチジルセリン(PS)合成酵素PSS1の小胞体膜上における膜配向性を明らかにした。
本研究を通じ、代表者はリン脂質合成制御機構およびその生理的意義について独創性の高い成果を挙げた。これらの成果は、細胞の環境変化に応じた細胞機能、細胞運命の制御機構の理解に大きく貢献するものと考えられる。さらに本研究で明らかとなった、ミトコンドリア由来PEを介したG0細胞分化制御機構や、Rb1欠損性乳がん細胞の増殖におけるミトコンドリア由来PE依存性は、今後再生医療やがん治療など医療面の発展に貢献するものと考えられる。また、PSS1の膜配向性解析から示唆されたPSS1活性制御機構は、Lenz-Majewski症候群やがんなど、諸疾患の病態、治療法解明に貢献するものと期待される。
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