研究課題
基盤研究(C)
ヒトなど脊椎動物の多くの内臓器官は、左右非対称である。内臓器官が左右非対称に形成される機構について、転写因子Pitx2が重要な役割を担うことなど明らかになってきたが、解決すべき残っている問題は多い。また、完成した内臓器官の機能面での左右差は不明である。本研究では、4つの切り口から解析を行う。①Pitx2の下流の分子機構の解析②左右非対称な器官形成を制御する細胞外環境の解析③腎臓と腎動静脈の左右非対称性の決定機構の解析④肺、肝臓、腎臓の機能的左右差の探索
・左右非対称な器官形成を制御する細胞外環境の解析:細胞外マトリックス因子LR1の役割を解明するために、LO1 KOマウスの形態異常の原因を探索した。その結果、細胞増殖率が異常に低下することで形態異常になることが示唆された。野生型でも一過性に形態異常が生じることがあるが、LR1によって細胞増殖率を高めて正常な発生に追いつくことが示唆された。また、LR1 KOマウスにおいて着床後の妊娠継続率が低下していることも分かった。LR1は子宮でも発現しており、妊娠時の母親の子宮における異常がLO1 KOマウスの形態形成に与える影響についても考慮して解析を続ける必要があることがわかった。・肝臓の機能的な左右差の解析:生体肝臓の分葉間でアミノ酸代謝に関わる遺伝子の発現量に差があることを明らかにしてきた。胚発生から生後のいつからこの差が生じるのか調べたところ、胚発生中の肝臓ではそれらに差が無く、生後から差が生じることが分かった。この結果から、生後の食餌依存的にこれらの遺伝子の発現が調節されている可能性も示唆された。一方で、これらの遺伝子発現量の分葉間の差を制御していると示唆されている転写因子Pitx2は、胚発生中から継続して左右非対称に発現していることもわかった。肝臓の各分葉の形態の違いが機能的な差を生み出している可能性についても着目して、肝臓の分葉間の形態や血管分布の違いとその形成機構についても解析を進めた。肝臓におけるPitx2や分葉間で差が見られた遺伝子の発現細胞を同定して、肝臓の機能的な左右差の制御機構を明らかにしていく。
3: やや遅れている
新型コロナの感染による研究の遅れは感じなくなり、肝臓の機能的な左右差の解析については概ね順調に研究が進んでいる。一方で、左右非対称な器官形成を制御する細胞外環境の解析については、KOマウスが異常を示す割合が100%では無く、異常を示さないKOマウスもいるため、解析が予定通りに進んでいない。
・左右非対称な器官形成を制御する細胞外環境の解析については、妊娠時の栄養条件を変えるなどして、形態異常になるLR1 KOマウスの割合を増やして、形態異常の原因分子の探索を進めて、LR1の役割の解明を目指す。・肝臓の機能的左右差の解析については、組織学的にPitx2や分葉間で発現量に差がある遺伝子の肝臓内における発現細胞や左右差を確認する。続いて、左右から別々に発現細胞を培養しても同様の左右差を示すのかどうかや、遺伝子発現の基質依存性など制御機構を解析する。一方、分葉間で発現量に差がある遺伝子のエンハンサーを探索する。内臓の左右非対称性が異常になる変異マウスにおける解析も進める。
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