研究課題
基盤研究(C)
扁平上皮癌(SCC)におけるマスター転写因子(MTF)は、SCCの悪性化に関わる遺伝子発現ネットワークを支配する。申請者はMTFの発現・核内移行を制御する新たな因子、ヌクレオポリン(NUP)を同定した。さらにその後の検討から、NUPはMTFの発現を誘導・維持することを見出した(未発表データ)。本研究では、このNUPによるMTFの発現に最適な核内DNA環境を構築する過程に着目し、SCC特異的MTFの発現が誘導され維持されるメカニズムの解明を目的とする。本研究成果は、MTFの発現環境を標的とするSCCの新たながん治療戦略の応用展開へ繋がる。
本研究では、核構造と結びついたゲノム構造・機能環境に着目し、扁平上皮癌特異的マスター転写因子TP63の発現が誘導され維持されるメカニズムを解明することを目的とした。TP63の発現を誘導するスーパーエンハンサー(SE)をDNA-FISH法可視化し、核内空間における局在解析を実施した。TP63を含めたいくつかのSEが核膜孔近傍に局在化することが明らかになった。この局在化にはSE構成タンパク質と核膜孔構成分子の分子間相互作用が関わっていた。この分子間相互作用を生化学的に検出するための方法を考案し、MS解析を組み合わせることで、SE構成因子や核膜孔相互作用因子について完全プロファイリングを達成した。
本研究により、細胞の重要な機能発現に関わるマスター転写因子の発現量は、核構造と結びついた分子基盤により保証されていることが明らかとなった。とりわけ、ゲノムの空間的な配置に関わる分子基盤の一面が明らかとなり、これらを操作する低分子化合物開発がすすむことで、目的とする細胞分化誘導技術の創成やがん治療戦略につながることが期待される。また、近年注目される相分離現象に関与するタンパク質の網羅的な解析技術基盤の開発にも成功し、この技術は核内相分離によるゲノムトポロジー形成機序の解明に役立ち、生命科学の発展に貢献することが期待できる。
すべて 2022 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 536 ページ: 59-66
10.1016/j.bbrc.2020.11.115
Gastroenterology
巻: 154 号: 4 ページ: 1311-1327
10.1053/j.gastro.2020.06.050
Biomaterials
巻: 256 ページ: 120198-120198
10.1016/j.biomaterials.2020.120198
Nano Letters
巻: 20 号: 9 ページ: 6320-6328
10.1021/acs.nanolett.0c01755