研究課題
基盤研究(C)
大動脈弁狭窄症(AS)の危険因子は冠危険因子とほぼ同様であるが、AS患者においては動脈硬化とASの程度にかい離が見られることが多く、未知の因子がASの発症に強く関与している可能性が高い。本研究はDNA損傷と細胞老化がASの発症に関与しているという仮説を検証することを目的とする。このためAS患者においてDNA損傷、細胞老化と大動脈弁の硬化・肥厚との関連を検討する。本研究によりDNA損傷および細胞老化のASの発症における関与が明らかになれば、これらを制御するシグナル伝達分子が治療の標的になり得る。
本研究では、DNA損傷が大動脈弁狭窄症(AS)の発症・進展に関与しているか否か検証した。重症AS患者より末梢血を採取、単核球を分離し、DNA二本鎖切断の指標として核内のgammaH2AXのフォーカスを免疫蛍光法にて描出し、1細胞あたりのフォー カス数を算出した。またFISHを用いて二本鎖切断に基づく異常染色体として二動原体染色体を検出した。AS群は非AS群に比して、DNA損傷が多かったが、男性に比して女性においてその傾向が強かった。また単核球中のいくつかの炎症性サイトカインが、AS群の方 が多かった。
今日のASのほとんどは石灰化ASであり、その基本病態である石灰化による弁の硬化の危険因子は冠動脈疾患、すなわち動脈硬化の危険因子とほとんど重複しているが、実際の石灰化AS患者においてはASと動脈硬化の程度がかい離していることも多く、未だ同定されていない因子がASの発症や進行に大 きく関与している可能性が高い。本研究の結果から、ASの発症にDNA損傷が関与している可能性があり、新たな治療標的になり得る可能性が示唆された。
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