研究課題
基盤研究(C)
胎児期における血液細胞産生(造血幹細胞からの分化)はおもに肝臓でおこなわれているが、ここでは同時に造血幹細胞の著しい増殖(自己複製)もみられる。この「分化」と「自己複製」という相反する2つの現象を短期間に並行しておこなうことを可能にする仕組みは、未だ解明されていない。本研究計画では、新規遺伝子改変マウス(Creドライバーマウス)を用いた細胞系譜追跡実験を通して、胎児肝臓において「分化」と「自己複製」が同時におこなわれる仕組みの解明を目指す。
本研究は、マウス胎仔期において、造血幹細胞を含む造血システムがどのように形成されるのかを明らかにすることを目的としており、具体的には以下の3つの問いに答えるべく研究を進めている。① 「胎生期の造血前駆細胞は造血幹細胞に由来するのか」Hlf-CreERT2トレーサーマウスを用いた細胞系譜追跡実験から、胎仔肝(胎生14日目)に存在する造血幹細胞と造血前駆細胞は、Hlf陽性の起源細胞からそれぞれ独立して発生していることが明らかとなった。さらに、Evi1+/-マウスの解析、およびEvi1-CreERT2トレーサーマウス(新規作製)を用いた細胞系譜追跡実験の結果もこの結論を支持するものであった。② 「胎生期の造血幹細胞は分化しているのか」Evi1-CreERT2トレーサーマウスを用いた細胞系譜追跡実験からは、胎生後期の造血幹細胞が造血前駆細胞へと分化している様子は観察されなかった。①と②の結果は、胎生期の血液細胞の大部分は造血幹細胞由来ではないことを強く示唆している。③ 「造血幹細胞への運命決定は転写因子Evi1の量依存的なのか」Evi1+/-マウスは、Evi1強陽性細胞を欠損している。この性質を利用し、Evi1の発現量と造血幹細胞形成の関係についての検討をおこなった。Evi1+/-マウスでは、造血幹細胞特異的な減少が観察された。さらに、Evi1の強制発現系(ROSA-Evi1マウス:新規作製)を利用し、血管内皮細胞、および血液細胞クラスターでEvi1を発現させたところ、造血幹細胞産生の増加が見られた。これらの結果は、Evi1の発現の高い起源細胞が造血幹細胞の産生に関与していること、および、Evi1は血液細胞クラスター内で機能していることを示している。
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