研究課題
基盤研究(C)
精子形成異常を伴う「男性不妊症」の4~6割の発症機序は不明といわれる。正常な精子形成にはDNA、染色体構造、エピゲノムのいずれにも問題がないことが求められる。「エピゲノム」は主に染色体上に施される修飾の状態のことで、これがないと遺伝子は正常に発現することができなくなる。ところが、エピゲノム異常と不妊との関係についてはいまだ未知の部分が多い。我々はこれまでに、エピゲノム修飾にかかわるKmt2bタンパク質がないと精子形成がうまくいかないことを示した。本研究ではKmt2bが関与する遺伝子の中から不妊につながるものを同定し機能を調べることで、不妊発症機構解明への貢献を目指す。
本研究では雄性不妊発症機序をエピゲノムの観点から分子レベルで解明することを目指し、ヒストン修飾酵素KMT2Bが制御する遺伝子の同定とその機能解析を実施するものである。これまでの研究で、我々はKMT2Bが精子幹細胞の分化に必須の機能を有することを明らかにした。またKMT2Bが精子幹細胞において、後々の精子形成に必要な一連の遺伝子にH3K4me3を導入することによって、それらの発現の準備をしていることが推測された。その結果を元に、本研究課題ではKMT2Bが制御する遺伝子の代表例であるTsga8遺伝子とTG2遺伝子の機能解析を行うこととした。Tsga8遺伝子は円形精子細胞以降に発現するタンパク質であり、我々の解析によりTsga8遺伝子のノックアウトマウスは精子細胞の発生異常に起因する不妊症を呈することが示された。さらに、Tsga8は精子細胞期のX染色体活性化の現象に必要であることが明らかになった。その後、TG2遺伝子のノックアウトマウス作製と精子形成能の解析を行ったところ、TG2が欠損すると精子細胞の発生が顕著に障害され不妊を呈することがわかった。我々はこのマウスの組織学的、分子生物学的解析を詳細に実施し、TG2が円形精子細胞が形態的に成熟し伸長精子細胞へ移行する過程に必要であることや、炎症の抑制に重要であることを示すことができた。さらに、TG2はプロテアーゼの恒常性の維持を通して精巣の自然免疫システムを制御する役割を有することが示唆された。TG2に関するこれまでの結果は現在論文投稿中である。このように、本研究ではKMT2Bが制御するエピゲノムを通した精子形成の仕組みや不妊症発症機序の一部を、KMT2Bが実際に制御する代表遺伝子を用いて明らかにすることができたと考えられる。
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Development
巻: 148 号: 8
10.1242/dev.196212