研究課題
基盤研究(C)
歯周病は、2型糖尿病、動脈硬化などの全身疾患と関連しているが、その因果関係については未解明の部分も多い。これら歯周病と関連した全身疾患には、NLRP3インフラマソームと呼ばれる自然炎症経路が関与していることが近年明らかとなった。即ち、これらの全身疾患の病変部ではNLRP3インフラマソームが活性化してIL-1β前駆体を成熟型へと転換して炎症を惹起する、しかしながら、IL-1β産生のためには予めIL-1β前駆体が病原体などによる刺激で産生されている必要がある(プライミング)。本研究では、この末梢血単核球のプライミング状態に歯周組織における炎症が影響を与えているかどうか検討する。
歯周病は、疫学的に2型糖尿病、動脈硬化、関節リウマチなどの全身疾患と関連している。 これらの全身疾患には、局所に無菌性炎症が惹起されるという共通した特徴がある。 近年、この無菌性炎症に“NLRP3インフラマソーム”と呼ばれる自然炎症経路が関与していることが明らかとなった。即ち、局所に蓄積した膵島アミロイドポリペプチドや血管壁コレステロール結晶などのダメージ関連分子パターン(DAMPS)によりNLRP3インフラマソームが活性化され、それぞれの疾患の原因となる。活性化したNLRP3インフラマソームはIL-1β前駆体を成熟型へと転換し、局所に炎症を惹起して病態に大きな影響を与える。しかしながら、IL-1β産生には予め白血球が病原体などによる刺激で細胞内にIL-1β前駆体を合成している必要がある(プライミング)。本研究では、歯周組織における炎症が末梢血白血球をプライミングすると仮説を立て、これを検証することとした。これまでに、慢性歯周炎患者30名の歯周基本治療前後に歯周組織検査と採血を行い、インフラマソームプライミング状態を解析した。末梢血から単核球を分離し、RNA抽出後に定量的RT-PCRによりIL-1βとインフラマソーム構成因子ASC、NLRP3、Caspase-1mRNA発現量を測定した。歯周基本治療後、歯周組織の状態は有意に改善し、末梢血単核球のIL-1βとASC mRNA発現量は減少したが、NLRP3、Caspase-1mRNA発現量は減少しなかった。さらに、歯周病患者で観察される歯石および根尖病巣において観察されるコレステロール結晶でマウスマクロファージを刺激したところ、細胞質中のNLRP3インフラマソーム活性化を介してIL-1βが産生された。これらの結果は、歯周組織におけるNLRP3インフラマソーム活性化メカニズムの一端を示唆していると思われる。
2: おおむね順調に進展している
これまでに、30名の慢性歯周炎患者の歯周基本治療前後に歯周組織検査を行い、プロービング値(PD)、プロービング時の出血 (BOP)を記録すると同時に末梢血を採血した。インフラマソームプライミング状態を解析するため、末梢血から単核球を分離し、RNA抽出後に、定量的RT-PCRによりIL-1βとインフラマソーム構成因子ASC、NLRP3、Caspase-1 mRNA発現量を測定した。また、単核球をシリカ結晶で刺激し、上清中のIL-1β産生量をELISAで解析した。歯周基本治療後に、PD 4-5mmおよびPD 6mm以上の部位、BOP検出率は有意に減少した。また末梢血単核球においてIL-1βとASC mRNA発現量は減少したが、NLRP3、Caspase-1 mRNA発現量は減少しなかった。さらに、歯周組織におけるNLRP3インフラマソーム活性化メカニズムについても解析した。歯周病患者に高頻度で沈着する歯石でマクロファージを刺激すると細胞質中のNLRP3インフラマソーム活性化を介してIL-1βが産生された。また、根尖性歯周炎病変部において観察されるコレステロール結晶でマウスマクロファージを刺激した場合にも、IL-1βが産生された。歯石で刺激後のマウスマクロファージ培養上清はRANKL処理した骨髄マクロファージの破骨細胞形成を促進し、 rIL-1raを添加してIL-1の活性を阻害すると、破骨細胞形成は抑制された。さらに、rIL-1βは骨髄マクロファージの破骨細胞形成を促進した。これらの結果からNLRP3インフラマソーム活性化を介して誘導されたIL-1βはマウス破骨細胞形成促進的に作用したと考えられる。以上の進捗状況から、研究はやや遅れているものの、概ね予定通り進展していると考える。
令和5年度も、検査前3か月以内に歯周治療を受けていない慢性歯周炎患者に研究内容を説明して同意を取得した後、歯周基本治療前後に歯周組織検査を行い、プロービング値 (PD)、プロービング時の出血(BOP)を記録し、これと同時に末梢血を採血する予定である。2型糖尿病、動脈硬化、関節リウマチ、痛風、偽痛風、アルツハイマー病などの全身疾患の既往についても問診にて調査する。また、糖尿病患者については、HbA1c値を測定する。インフラマソームプライミング状態を解析するため、末梢血から単核球を分離し、RNA抽出後に、定量的RT-PCR法によりIL-1βとインフラマソーム構成因子ASC、NLRP3、Caspase-1 mRNA発現量を測定する。この際、健常者のmRNA量を1とし、相対的mRNA量を求める。次にNLRP3インフラマソーム刺激時のIL-1β産生量を測定するため、単核球をATPで刺激し、上清中のIL-1β産生量をELISAで解析する。この際、IL-1βの産生を促すために、低濃度のLPSでプライミングしておく。さらに、令和5年度は、NLRP3ンフラマソームの活性化によるIL-18の産生と、その骨吸収への影響についても解析する予定である。この研究が予想通りに進めば、NLRP3インフラマソームを介した歯周病と全身疾患との関連が明らかになることが期待される。
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