研究課題/領域番号 |
20K12686
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分90130:医用システム関連
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
佐川 貢一 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (30272016)
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研究分担者 |
岡 和彦 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (00194324)
小渡 亮介 弘前大学, 医学部附属病院, 助教 (20792477)
長井 力 埼玉工業大学, 工学研究科, 准教授 (80401777)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2021年度)
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配分額 *注記 |
4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2020年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 採血 / ロボット / 血管 / 赤外線 / 力覚 / 深さ |
研究開始時の研究の概要 |
血液検査のために行う採血は,患者や医療従事者への負担軽減のために自動化が期待されている。そこで本研究では,生体内の血管の深さや方向を高精度計測し,確実に皮膚血管モデルに自動穿刺する方法を確立することを目的とする。血管位置の3次元計測には,赤外線ステレオカメラを利用し,赤外線の生体組織内での屈折や散乱を考慮して血管の中心軸を通る3次元方程式を導出する。また,生体と力学的および光学的に同等な特性を有する皮膚血管モデルを試作して穿刺実験を行い,血管と穿刺針の位置関係および注射針に作用する力の変化を考慮して血管が逃げる条件を解明し,血管を逃がさず確実に穿刺する方法を開発する。
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研究実績の概要 |
本研究では,生体内の血管の深さや方向を0.5mm以下の誤差で高精度計測するとともに,模擬血管穿刺時に採血針に作用する力の変化を利用することで,確実に皮膚血管モデルに自動穿刺する方法を確立することを目的とする。血管位置の3次元計測には,赤外線ステレオカメラを利用し,赤外線の生体組織内での屈折や散乱を考慮して血管の中心軸を通る方程式を導出する。これまでの研究から,模擬皮膚内の模擬血管に対して、あらゆる方向から均一に照射された赤外線が散乱すると,皮膚上に現れる血管像は血管の真上付近に現れることを確認している。そこで令和3年度では,指向性の強いレーザ光を使用し,拡散の程度を細かく変更した媒体内に埋め込んだ物体の位置の見え方がどのように変化するのか実験的に調査した。媒体には,水で薄めた牛乳を使用し,2方向からレーザ光を照射して媒体内の深さをステレオ視の原理で計測した。実験の結果,拡散物質の濃度を増加させると媒体内に埋め込んだ物体の深さは徐々に浅く見える傾向にあり,濃度が20%程度になると,ヒトの血管位置を推定したときと同様に,物体の深さが皮膚表面付近に推定されることを確認した。また,拡散物質の濃度を増加させたり,照射するレーザ光の強度を増加させたりすると,拡散によって模擬皮膚表面に現れる拡散光の面積も増加することを確認した。このことは,ヒトの肌の場合にも同様であったことから,人の皮膚と同等の特性を有する牛乳濃度の同定が可能であることが示唆された。また,採血針に作用する力を測定可能な穿刺ロボットを開発し,模擬血管への自動穿刺を行う実験を行った結果,模擬血管上壁に針が振れた直後の力覚の変化と逆血の有無から,穿刺成否の判定および穿刺失敗時に血管が逃げた方法の評価が可能であることを確認した。血管の逃げた方法を知ることにより,次に血管穿刺する位置の調整が可能になると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,令和2年度から4年度までの3年間で以下の項目を解明する。 ①実際の血管深さが浅く推定される原因の解明と,高精度推定法の考案 ②模擬血管が逃げる条件の解明と,ロボットによる確実な穿刺法の確立 令和3年度は,拡散物質内では血管深さが浅く推定される現象を実験により再現し,拡散物質の濃度によって推定深さが変化することを確認して,濃度と推定深さの誤差との関係を調査した。その結果,濃度と推定誤差には直線的な関係があることが示唆され,拡散物質の濃度がわかれば,浅く推定される物体の深さを修正可能であることが予想された。拡散物質の濃度については,照射するレーザ光の強さと,拡散によって皮膚表面に現れた拡散光の面積の関係を利用して推定できる可能性がある。これにより,拡散物質の推定濃度と見た目の血管深さの関係から,実際の血管深さが推定できる可能性があり,今後調査していく予定である。 シリコンチューブを使用した模擬血管穿刺時,わざと血管軸から1mm程度外れた位置に穿刺を行った結果,逆血が観察されず,血管が逃げて穿刺に失敗することを判定することが可能となっている。また,その際測定された力覚情報から,血管が逃げた方向を推定することが可能となっている。一方,採血針が注射器の進行方向に対して斜めに装着されていると,模擬皮膚穿刺後に不要な横方向の力を受け,穿刺目標位置に針先が到達せず,穿刺に失敗することも確認している。採血針の取り付け方向を,1台のカメラで推定することは可能であるから,採血針の装着条件に対応した自動穿刺法を実現することも可能となっている。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度では,令和3年度に実施した実験より得られた,拡散物質の濃度と媒質内の物体の推定深さとの関係を利用して,ヒトの皮膚の拡散の程度を実験により推定し,見た目の血管深さから実際の深さに変換する式の構築を目指す。これまでの実験から,見た目の血管深さは,実際の血管深さの数分の1程度になることを確認している。そこで,例えば拡散物質の濃度に対応する係数を見た目の血管深さに乗ずることで,実際の深さに近い値を導出できると考える。また,光の伝搬の様子を確率的に計算するモンテカルロ法を利用し,拡散物質の濃度と見た目の深さとの関係をシミュレーションによって確認する。さらに,皮膚表面に現れる見た目の血管の位置が,皮膚表面のどの位置に現れるのか調査する。もし,模擬血管と皮膚上に現れた血管像との位置が垂直の関係にあれば,血管位置推定の精度を向上させる手がかりになると考える。 模擬血管穿刺時,中心軸から針の位置がずれると血管が逃げることにより穿刺に失敗する。また,穿刺失敗時には逆血が観察されない。さらに,穿刺時の力覚情報から,血管が逃げた方向を知ることが可能である。そこで,血管が逃げて穿刺に失敗したことが確認されたら,血管が逃げた方向に穿刺目標位置をわずかに移動させ,再度穿刺動作を行う制御アルゴリズムを現有の穿刺ロボットに組み込み,穿刺に成功するか調査する。
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