研究課題/領域番号 |
20K13223
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分03040:ヨーロッパ史およびアメリカ史関連
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
三浦 麻美 東洋大学, 人間科学総合研究所, 客員研究員 (40814893)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2020年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 西洋中世史 / 女性 / 宗教運動 / 神秘主義 / リテラシー / キリスト教 / 歴史 / ヨーロッパ / 中世 / ジェンダー / 修道院 / 執筆 |
研究開始時の研究の概要 |
知的営為における女性の活動と評価に関し、「書く」ことを歴史学の観点から考察する。西洋中世にものを書くことは女性にとって異端視される危険を伴ったが、常に宗教文学テクストを著す女性はいた。本研究はこの抑圧的な社会環境で女性が何を書き、自らの著作活動をどう正当化し、誰に受け入れられたのかを解明する。具体例として、高度な知識をもった複数の修道女がラテン語で執筆していたドイツのヘルフタ修道院を取り上げ、史料の内容と形態の両面の調査によりテクスト作成の知的背景、内容上の文脈、伝播の状況を解明する。これから得た知見を積極的に発信し、デジタル化した写本は所蔵機関と共有し、広く研究活動に提供する。
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研究実績の概要 |
西洋中世における女性のリテラシーに焦点を当て、「書く」という行為が社会的に持ち得た影響力を学問・学芸活動の文脈から考察した。分析対象である神秘主義文書は、時間や空間を超越した超自然的体験を主な記述対象とする。また、このジャンルの著作には女性の関与が多く見られる。そのため、従来の研究は女性による特殊な宗教的体験の記録と位置付けてきた。しかし、本研究は中世を通じて数百点に及ぶ写本が流布しえた作品は同時代の知識人や学術傾向と密接に関わった可能性があると考え、その具体的内容と背景の解明に取り組んだ。 ヘルフタ修道院で作成されたテクスト群については、前年度に引き続き、ハッケボルンのメヒティルトとヘルフタのゲルトルートの幻視テクストにおける記述の変遷を辿ることで、通時的な発展過程を論じた。中でも、ゲルトルート『神の愛の使者』第1巻の構造分析を行い、スコラ的な分割の手法とサン・ヴィクトルのリカルドゥスの「上昇」という概念を組み合わせることで、個人的な幻視体験が修道院共同体の中で共有されるようになった過程を明らかにした。この点については研究報告、講演で発表を行った。その際の質疑応答を反映して論文として投稿し、1点は刊行済み、もう1点は現在編集作業中である。 また、このような宗教性が修道院の周辺地域で受容された背景を明らかにするため、隣接するテューリンゲン地方で同時期に存在した聖人崇敬にも注目し、聖人伝や証書の分析を通じて女性の神秘体験が俗人信徒にも伝播し、信仰の対象として認められていたことを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は神秘主義テクストの伝播と受容を考察するため、ヨーロッパの文書館での写本調査を課題としていた。しかし、新型コロナウイルスの発生による海外渡航の困難さと感染への懸念に加え、ロシアのウクライナ侵攻による航空事情の混乱、エネルギー不足による社会的混乱の影響などを考慮し、予定していたような長期的な渡航計画を延期せざるを得なかったため。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続きテクスト内容の分析を行い、さらにその伝播についても検討対象を広げる予定である。現在のところ、今年度中に現地での文献調査を予定しており、その際に異写本の分析に着手するが、分析対象を変更せざるを得ない。『特別な恩寵の書』に関しては、当初の予定にあったアイスレーベン、ヴォルフェンビュッテルに加え、デジタル化によりアクセスが可能となったライプツィヒ写本の使用も考えている。しかし、ライプツィヒ写本は近年発見されたばかりのもので写本系統も不明な部分が多いため、他の写本や校訂本との比較検討による成果をあげるにはさらに時間が必要になるものと考えられる。 また、ヘルフタの神秘主義文書伝播の下地を作った地域背景の解明も進める計画である。ヘルフタ修道院近隣のシトー会女子修道院関連史料の分析を行い、人的交流の実態や聖務に関する情報を新たに得ることで、神秘主義霊性が地域の宗教性に与えた影響を評価することを考えている。
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