研究課題/領域番号 |
20K14230
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分10030:臨床心理学関連
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
滑川 瑞穂 明治学院大学, 心理学部, 講師 (50774030)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2020年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | ワルテッグ描画テスト / 描画法 / 抑うつ / うつ病 / 大学生 / 印象評定 / うつ / アセスメント / 臨床心理学 |
研究開始時の研究の概要 |
うつのアセスメントには、通常、自己記入式アンケートを用いるが、心理状態を視覚的に把握できる描画テストを実施することも多い。 本研究の目的は、国内でほぼ利用されていないワルテッグ描画テストを、うつの主症状である認知障害の新しいアセスメントツールとすべく、安定的な評価法を検討し、健常者と精神障害者との描画特徴の違いを抽出することである。ワルテッグ描画テストは、刺激図形の印刷された8つの四角のなかに描画するため、他の描画に比して、負担が少なく評価項目も設定しやすい。健常者と精神障害者の絵の違い、改善と悪化のサインを抽出し、臨床場面での描画テストの選択肢を増やし、アセスメントの新しい一手段としたい。
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研究実績の概要 |
本研究課題では,高い利用可能性を持ちながら国内では十分な使用や研究がなされていないワルテッグ描画テストを用いて、うつに関する描画特徴を抽出することを目的に複数の調査を実施している。 3年目にあたる令和4年度(2022年度)は、健常者とうつ病患者に、約6か月間の間隔をあけて2回の調査参加を呼びかけ、2度の調査間に生じる描画特徴の変化、健常群とうつ病群との描画特徴の相違について調査を実施した。実施に際しては、初年度に予定した計画から以下の3点について検討と修正をおこなった。まず、①健常群では大学生だけでなく18歳以上の精神的に不調のない参加者を対象にするよう変更した。次に、②2度の調査の実施方法と時期は、当初は対面実施で、1回目の翌年に2回目を実施する予定であった。しかし、感染拡大のおそれを考慮し非対面の実施が望ましい現状、短期間での描画特徴の差異を検討したほうが絵の変化をとらえやすい可能性、翌年であると参加者が大きく減少してしまうおそれの3点を考慮し、約6か月の期間をあけて、各自の自宅等に持ち帰って調査を行うこととした。さらに、③研究に組み込まれていた非構造化面接の実施は、抑うつの質問紙上(BDI-Ⅱ)で抑うつの重症度を判断することとし、実施は中止した。 本調査の結果は、2回の調査に回答した85名(男性22名,女性61名,回答しない2名)、平均年齢34.5(SD=11.8)歳を分析対象とし、健常群、健常群のなかでうつ得点が中等度以上であったハイリスク群、うつ群に分類し現在分析中である。現時点では、①うつ群における記号的・形式的な表現の存在、②健常群は1回目から学習し2回目では刺激図形の性質に合う絵を描く可能性などが検討されているが、さらなる分析を進めていく。また、臨床現場での参考となるよう実際の絵がどんな様子であるのか、分かりやすい事例を取りあげて説明する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
緩和傾向にはなったものの、令和4年度(2022年度)も新型コロナウイルスの影響を受け、当初の研究計画とは変更になっている面がある。 対面の大規模調査は以前と比べて非常に困難となり、当初は対面で行う予定であったが、郵送や手渡しで検査用紙を自宅で持ち帰ってもらい静かな環境で実施してもらう方法へと変更することとなった。ただし、現時点では、予定していた調査はおおむね計画通りに進められている。一方で、描画の実施方法としては、通常個人実施だけでなく、集団実施も可能ではあるが、いずれにしても専門家の見守りのなか対面で実施されることが標準的であった。今回の調査で非対面で実施したことは、従来の先行研究とは異なる点であり、考察する際には非対面実施のプラス面とマイナス面を考慮しなくてはならない。 これまでの進捗状況を振り返ると、1年目に予定した評価法の改善点の検討に基づき、現在描画の評価を進められている。また、1年目に予定していたワルテッグ描画テストの刺激図形に対する印象評価は、実施に少々遅れがあったが、論文としてまとめ、すでに受理され2024年の雑誌「臨床描画研究」に掲載予定である。一方、2年目と3年目に予定した大学生とうつ病群の追跡調査は、当初1年ほどの間隔をあけて追跡調査として2度目の調査を依頼する予定であったが、まずはより短期的な描画の変化を知りたいと考え、半年ほどの間隔をあけて実施することとなり、現在分析を進めている。可能であれば、再度同じ参加者に調査をして、時間経過による描画の変化を追跡したいと考えている。4年目までに予定していた精神障害者のうつ病と健常群との間の描画の比較は、当初よりも限定した参加者数とはなったが、現在進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
4年目にあたる令和5年度は、主に以下の2点を行う。まず、当初の計画通りに、①うつ病群と健常群に対するうつのアンケート調査によるワルテッグ描画テストの絵の比較検討を継続する。すでにデータ収集は令和4年度までに終了しているため、今年度は絵の分類や統計分析を進めて、うつ病群と健常群との絵の特徴の違いをまとめ、学会発表、論文投稿を行う予定である。次に、当初の予定では、追跡調査として、1年ほどの間隔をあけて2回目の調査を依頼する予定であった。そのため、参加者の再度の協力が得られるようであれば、②その後のうつ状態に伴う絵の変化を知るため、3回目の調査を実施したいと考えている。 さらに、2022年に翻訳書が刊行されたワルテッグ描画テストの新しい解釈法である「クリシワルテッグシステム(CWS)」が最近注目されている。本研究では、アヴェラルマン法による絵の分析を行ってきたが、クリシワルテッグシステムによる描画の分析と解釈は、スコアリングから非常に詳細な解釈が可能であるため、うつのアセスメントツールのみならず、今後日本の臨床現場においても広く活用されると推測される。よって、抑うつ得点高群と抑うつ得点正常群との間では、刺激図形に対する喚起的性質(EC)や感情的性質(AQ)の得点に有意差が認められるかなど、先行研究を吟味しながら、この解釈法を用いた追加調査を実施することも検討していきたい。なお、このシステムの発案者であるCrisi,A氏はワルテッグ描画テストの研究と実践を長年行い、臨床実践に基づく描画の理解と解釈が非常に深いといえる。これまで新型コロナウイルスの影響で海外での研鑽が難しかったが、可能であればヨーロッパやアメリカ在住の研究者の学会発表や研修会に参加し、学びを深めたいと考えている。
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